研究課題/領域番号 |
19K05863
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田中 保 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 教授 (90258301)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スフィンゴ脂質 / 野菜 / 消化吸収 / セラミドリン酸 / グリコシルイノシトールセラミド / ホスホリパーゼD |
研究実績の概要 |
スフィンゴ脂質は形質膜におけるラフトの主要成分であり、髄鞘や皮膚が果たす機能に欠かせない脂質である。また、シグナル分子として振る舞うスフィンゴ脂質は動物だけでなく、植物にも見出されている。以前、我々はキャベツの若い葉やダイコンを磨り潰すことで、ファイト型セラミド 1-リン酸(PC1P)が生じることを明らかにした。PC1Pの前駆体はグリコシルイノシトールホスホセラミド(GIPC)であり、GIPCのDポジションを加水分解する酵素活性が存在することも明らかにした。GIPCは植物に普遍的に見られる脂質で総リン脂質の10%を占める。酵素活性の高い組織では、組織の磨り潰しによりGIPCの大半はPC1Pに変換される。従って、PC1PやGIPCは食事性スフィンゴ脂質でもあるが、その消化性や吸収性については調べられた形跡がない。 昨年度はGIPCやPC1Pの単離方法などの分析方法を確立し、その物理化学的特性を調べた。本年度は特にPC1Pの消化性について調べた。その結果、PC1Pは小腸のアルカリホスファターゼ(ALP)によって消化され、セラミドに変換されることがわかった。同じリン酸モノエステル型脂質のホスファチジン酸(PA)と比較すると、ALPのPC1Pに対するVmax値はPAのそれと同等で、5-7nmol/sec/mg 蛋白程度であった。この値はALPの基質として活性測定によく使用されるパラニトロフェニルリン酸(pNPP)のそれの数十分の1に過ぎない。しかし、デオキシコール酸を添加した条件ではVmax値がその5-7倍に増加し、界面活性剤の存在によって反応効率が上昇することがわかった。小腸ではトリグリセリドが胆汁酸と共にミセルとなって分解促進される。PC1Pも胆汁酸と混合されることで消化の効率が高まり、セラミドへと変換されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で研究対象とする植物スフィンゴ脂質のGIPCやPC1Pは単離方法や分析方法が確立されておらず、標準品の市販もない。我々はPC1Pや水溶性脂質であるGIPCの単離・定量といった分析方法の開発と物理科学的特性の解明からこの研究をスタートし、1年目で概ねこれを完了した。コロナ禍の2年目には実験ができない期間もあったが、PC1Pのアルカリホスファターゼによる消化性を検討することができ、胆汁酸の存在する小腸ではセラミドにまで消化されることがわかった。このあとは、既に明らかにされている植物由来グリコシルセラミドから生じるセラミドと同様な経過をたどるのではないかと思われる。この調子で研究を続ければ、PC1PやGIPCの消化吸収性について、何らかの最終結果が得られると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
PC1Pの吸収性について培養細胞を用いた実験を行う。PC1Pはホスファターゼによる脱リン酸化を受けセラミドに変換されることが判明したが、何らかのトランスポーターを介してそのまま取り込まれる可能性がある。本年度は培養細胞(Caco2細胞)を用いて、この可能性を調べる。また、セラミドの消化性と吸収性についても同様の実験系を用いて調べる。さらに哺乳類がGIPCを消化できるかどうかについて、全く知見がない。そこで、本年度はGIPCを消化する酵素活性が膵液や小腸粘膜に存在するかどうかについて検討を行う。 動物においてC1Pはシグナル性脂質の1つでアポトーシスの制御やホスホリパーゼA2の活性化などの機能が報告されている。食事性PC1Pがそのまま細胞に取り込まれれば、小腸粘膜細胞に、血中に移行すれば、全身の細胞に何らかの作用を示す可能性もあるので、Caco2細胞に対するアポトーシス抑制効果を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:3月4日に購入した恒温水槽他3品目が3月に納品となり、支払いが完了しないため。 使用計画:恒温水槽他3品目の支払いが4月に完了する予定である。
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