我々は、「紫外線被曝が、臓器間ネットワークを介して各臓器にどのような影響を与え、メタボリックシンドロームに関わっているのか」という学術的「問い」に対して、皮膚への紫外線被曝が肝臓や脂肪組織のホルモン、サイトカインなどのタンパク質、アミノ酸代謝に影響を与えることを明らかにした。しかし、脂質代謝については解明されていない。そこで、本研究では、「紫外線の皮膚への被曝が皮膚、肝臓、脂肪組織における脂質代謝にどのような影響を与えるのかをリピドミクスを用いて明らかにし、また、その変動のメカニズムを解明」することを目的とした。今までに、皮膚へ紫外線照射したマウスから皮膚、肝臓、脂肪組織を採取し、脂質抽出後、リピドミクスを行い変動する脂質および脂質に関わる物質を検索した。肝臓においては、ドコサヘキサエン酸を含むトリアシルグリセロールが増える傾向があった。そこで昨年度は、ドコサヘキサエン酸代謝に関わる酵素の変動について検討した。α-リノレン酸からエイコサペンタエン酸に関わる酵素FADS1のmRNA量は紫外線照射24時間後では減少傾向だったが、48時間後では差がなくなった。また、脂肪酸合成に関わるACACAのmRNA量は紫外線照射24時間後では減少傾向、48時間後では増加した。一方、β酸化に関わるCPT1AのmRNA量は変化なかった。本年度はドコサペンタエン酸からドコサヘキサエン酸の代謝に関わるΔ4不飽和化酵素のmRNA量を測定したところ、24時間、48時間ともに変動はなかった。さらに、IGF‐I の結合タンパク質IGFBPsが照射48時間後に増加し、IGF活性を低下していることが考えられたため、血中のフリーのIGF量を測定したところ、低下傾向が認められた。 以上のことから、皮膚へのUV照射は肝臓ドコサヘキサエン酸量の増加、IGF‐I活性の低下を惹起することが分かった。
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