我々はこれまで、マウス味蕾を採取し1細胞RNA-Seqにより、味蕾が他の上皮細胞と別のクラスターを形成することを確認した。その結果、I型、II型、III型味細胞は遺伝子マーカーにより明確に区別されることがわかり、本研究を支える基礎となった。今回、サル有郭乳頭由来の味蕾オルガノイドを用いて、1細胞RNA-Seq解析を行ったところ、7つの独立したクラスターに分けられ、そのうちの7番目のクラスターに、GNAT3、GNB2、TAS1R1、TAS1R3などII型味細胞のマーカが多く見られた。一方、マウスの有郭乳頭の結果のようにI型、III型味細胞のマーカーは顕著に検出されなかった。これは、げっ歯類と霊長類間で味組織のマーカーが異なるためか、サル味蕾オルガノイドではI型およびIII型のマーカーが出現しないかのいずれかであると思われる。III型マーカーであるOTOP1(酸味受容体)の発現細胞はサル味蕾オルガノイドから確認はされているが、まとまったクラスターとして存在しないことから、霊長類とげっ歯類の間ではIII型細胞の機能も異なることも考えられる。 今回の研究は、これまで解析されてきたマウスにおける味細胞マーカーを参考に、サル味蕾でも同様のマーカーが発現していることを前提にしていたが、本研究結果により、これまでのマウスにおける味細胞マーカーは霊長類には単純に当てはめられないことが判明した。今後は、霊長類の味蕾を研究するためには、マーカー探索と抗体などのツールを充実させなければならい。 今回の研究をベースに、ヒトをはじめとする霊長類の味蕾についての基礎的理解が進み、超高齢化社会におけるQOL改善のための応用研究が開始されることが期待される。
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