研究課題
本研究は、乳化剤がどのような機序で腸内環境バランスを破壊し腸炎を誘発するのかを解明し、炎症性腸疾患の予防や治療に結びつけることが目的である。昨年度、マウスへの乳化剤(polysorbate 80、以下P80)投与によって生じる小腸炎の増悪に、腸内細菌叢の変化が関与している可能性を示した。2020年度は、乳化剤による腸内細菌叢の変化と腸炎増悪との関連性について更に解析を進めた。(1) 抗菌薬存在下における乳化剤の腸炎への影響:抗菌薬で腸内細菌を減少させると、P80による小腸炎の増悪は再現されなかったことから、腸内細菌が小腸炎の増悪に関与していると考えられた。(2) 乳化剤を投与したマウスの糞便微生物移植 (FMT):P80投与で腸内細菌叢が変化した糞便を別のマウスに移植することで、P80の経口投与と同様に小腸炎が増悪するか検討した。P80投与マウスの糞便FMTにより小腸炎の増悪は認められなかったが、小腸での炎症性サイトカイン産生が増加する傾向が見られた。(3) Proteus mirabilis が腸炎に与える影響:昨年度の本研究において、P80投与マウスの小腸でP. mirabilisが増加することを明らかにした。本年度は、P. mirabilisを培養増殖しマウスに直接投与して腸炎増悪への影響について調べた。小腸における炎症性サイトカイン産生は上昇傾向を示したが、小腸炎の増悪は見られなかったことから、乳化剤による小腸炎増悪にはP. mirabilisだけではなく複数の菌種の相互作用が関与していることが示唆された。これらのことから、乳化剤によりP. mirabilisが増加するなど腸内細菌が変化し、腸内細菌叢の撹乱が起きることで腸炎が起こりやすい環境に変化していると考えられた。
3: やや遅れている
乳化剤で増加する菌を同定し、その増加の機序、消化管免疫および腸炎増悪への影響について明らかにできた。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大により試薬や消耗品の納品が遅れたこと、実験動物購入にも制限がかかったことなどの理由により本来予定していた乳化剤と脂肪食に関する実験を実施できなかったため、当初の計画よりもやや遅れている。
本年度おこなった乳化剤による腸内細菌叢の変化に着目した解析では、マウス小腸において炎症性サイトカイン産生が増加する傾向が見られたが、明らかな腸炎の増悪は認めなかった。来年度は、腸管免疫で重要な役割を担う自然免疫に対する乳化剤の影響や、高脂肪食摂取時における乳化剤の腸炎への影響について解析し、乳化剤による腸炎誘発機序の解明を試みる。また、P80以外の乳化剤による消化管免疫および腸炎におよぼす影響についても解析を試みる予定である。
新型コロナウイルス蔓延に伴う渡航制限等により、学会や研究会が中止あるいはオンライン開催になったこと、また予定していた物品購入の一部が次年度に繰り越されたことの理由から計画どおりの使用ができなかった。当該支出分については次年度に計上予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
Microcirculation
巻: - ページ: -
10.1111/micc.12694
Digestive Diseases and Sciences
10.1007/s10620-021-06848-z