研究課題
加工食品用添加物の一つである乳化剤が、動物モデルにおいて腸内細菌叢を変化させ腸炎を引き起こすことが報告され、近年の炎症性腸疾患(IBD)患者数増加の一因となっている可能性が示された。本研究は、乳化剤がどのような機序で腸内環境バランスを破壊し腸炎を誘発するのかを解明し、IBDの予防や治療に結びつけることが目的である。昨年度までの解析で、乳化剤polysorbate 80(以下P80)はマウス小腸炎を増悪させることが示され、腸内細菌叢の変化は大腸よりも小腸で大きく、また小腸では硫化水素産生菌のP. mirabilisの増加を示す結果を得た。マウスの小腸炎増悪にはP80による腸内細菌叢の変化が関与しており、特に多様性の低下が腸炎を起こしやすい環境形成の一因であることが示された。またP80投与マウスでは、腸管粘膜から流出するリンパ液中の自然リンパ球の組成が変化しており、腸管免疫異常の一因となっている可能性が示唆された。最終年度は、母マウスの乳化剤摂取が仔マウスへおよぼす影響について解析をおこなった。妊娠中の母マウスの食餌が仔マウスの腸内細菌叢の変化や疾患発症に影響することが報告されている。そこで母マウスが摂取したP80が仔マウスの腸炎増悪に影響をおよぼすのか検討した。通常餌およびP80摂取の母マウスから生まれた仔マウスに対し腸炎を誘導したこところ、P80摂取マウスの仔は通常餌マウスの仔に比べ体重減少および腸管の短縮が抑制された。また腸管における炎症性サイトカインmRNAの発現は両群で有意な差が認められなかった。これらは親マウスのP80摂取が仔マウスの腸炎を抑制することを示唆しており、予想に反した結果となった。今後は、本研究で得られた結果を基盤として病態との関連について更なる解析を進め、IBDの予防や治療への応用を目指したい。
すべて 2023
すべて 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)