研究課題/領域番号 |
19K05877
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
菊地 あづさ 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30452048)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 一重項酸素 / 生体内光増感分子 / 一重項酸素生成抑制 / リボフラビン / カテコール類 / アミノ酸 |
研究実績の概要 |
酸素分子の最低電子励起状態である一重項酸素の化学的,物理的,生物学的特性が長年注目を集めてきた.一重項酸素の光増感生成は,光酸化,DNA損傷,光線力学療法の分野において研究がなされてきた.人体に有害な作用を及ぼす側面のある一重項酸素を速やかに消去する化合物については,抗酸化機能の面から注目され,多くの化合物について生成した一重項酸素を効果的に消去する指針の一つとして,一重項酸素消光速度定数が報告されている.しかし,一重項酸素の生成そのものを抑制することについては,研究報告はほとんどない.本研究では,生体内光増感分子からの一重項酸素生成自体を抑制する抑制機構の構築および解明を目的とした. 水溶性ビタミンB2であるriboflavin(RF)は,日常生活において光にさらされる皮膚や眼などの生体内に存在する.RFは光増感反応により一重項酸素を生成量子収量ΦΔ = 0.6と効率よく生成することが知られており,生体における代表的な一重項酸素光増感剤である.本研究ではビタミンCおよびビタミンE類がRF光増感一重項酸素生成を抑制することを明らかにしてきており,本年度は時間分解近赤外発光測定を行い,生体内光増感分子RFにより生成する一重項酸素について,同じく生体内に存在するアミノ酸,cysteine,histidine,methionine,tryptophanにおいて,RF光増感一重項酸素の生成抑制に効果があることを見出し,その生成抑制機構を明らかにした.消光剤がアミノ酸の場合は,RF励起三重項状態をアミノ酸が消光することにより,RF光増感による一重項酸素生成が抑制されることを過渡吸収測定および蛍光寿命測定から明らかにした.さらに,RFの励起三重項状態のアミノ酸による消光速度定数を実験から算出し,定量的に一重項酸素の抑制効果について評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RF光増感一重項酸素生成抑制では,光増感剤の励起三重項状態の速やかな消光が重要であることが解明され,ビタミンC類はじめ種々の生体に関連する消光剤について,一重項酸素生成抑制の知見を得ることができたため.さらに,過渡吸収測定および蛍光寿命測定から一重項酸素光増感剤の励起一重項状態および励起三重項状態の消光速度定数を求めることができ,一重項酸素生成抑制能について定量的に評価することができたため.
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今後の研究の推進方策 |
食品の品質劣化防止や貯蔵,保存の面からより効果的な酸化防止の手段が求められている。食品の酸化には活性酸素種(ヒドロキシルラジカル,オゾン,一重項酸素,スーパーオキシドアニオンラジカルなど)が関わっていることが知られており,特に脂質過酸化に関係する活性酸素種はDNAの損傷や突然変異,細胞のがん化,老化に深く関与することが報告されている.本研究では,次のステップとして,一重項酸素の生成抑制が脂質の酸化防止に有効かについても明らかし,脂質酸化物による生体毒性の低減や心疾患予防といった重要な課題解決へにつなげる. 予備実験として,本年度に食用色素赤色3号および赤色104号を一重項酸素光増感剤として,消光剤にビタミン類を用いた実験を行った.その結果,食用色素の励起三重項状態を消光することで,一重項酸素の光増感生成が抑制されることを見出した. そこで,油脂の例として,リノール酸共存下において,食用色素赤色3号および赤色104号の添加により一重項酸素によるリノール酸の酸化反応が抑制されるかについて明らかにし,一重項酸素の生成抑制が脂質の酸化防止に有効かについて明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により,2020年4月より大学キャビティ内への立ち入り規制などの影響で研究環境に大きな制約が生じたため,現有の近赤外発光測定装置を用いて一部の実施可能な実験と止めざるおえなかったため. 次年度に,一重項酸素抑制による油脂の酸化抑制へと研究内容を展開させるため油脂と食用色素を用いた一重項酸素生成抑制効果の評価装置として,光学部品 (レンズ,ミラー,偏光板,マウント)を購入し,近赤外発光測定装置を拡充し,実験に用いる予定である.
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