酸素分子の最低電子励起状態である一重項酸素の化学的,物理的,生物学的特性が長年注目を集めてきた.一重項酸素の光増感生成は,光酸化,DNA損傷,光線力学療法の分野において研究がなされてきた.人体に有害な作用を及ぼす側面のある一重項酸素を速やかに消去する化合物については,抗酸化機能の面から注目され,多くの化合物について生成した一重項酸素を効果的に消去する指針の一つとして,一重項酸素消光速度定数が報告されている.しかし,一重項酸素の生成そのものを抑制することについては,研究報告はほとんどない.本研究では,生体内光増感分子からの一重項酸素生成自体を抑制する抑制機構の構築および解明を目的とした. 水溶性ビタミンB2であるriboflavin(RF)は,日常生活において光にさらされる皮膚や眼などの生体内に存在する.RFは光増感反応により一重項酸素を生成量 子収量ΦΔ = 0.6と効率よく生成することが知られており,生体における代表的な一重項酸素光増感剤である.本研究ではビタミンCおよびビタミンE類がRF光増感一重項酸素生成を抑制することを明らかにしてきており,本年度は時間分解近赤外発光測定を行い,生体内光増感分子RFにより生成する一重項酸素について,同じく生体内に存在する尿酸に代表されるプリン類,カテキンに代表されるカテコール類において,RF光増感一重項酸素の生成抑制に効果があることを見出し,その生成抑制機構を明らかにした.消光剤がプリン類の場合は,RF励起三重項状態を尿酸が消光することにより,RF光増感による一重項酸素生成が抑制されることを過渡吸収測定および蛍光寿命測定から明らかにした.さらに,RFの励起三重項状態の尿酸による消光速度定数を実験から算出し,定量的に一重項酸素の抑制効果について評価した.
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