研究課題
これまでに我々は,水溶性食物繊維の一種であるペクチンが,側鎖を介して直接腸管のマクロファージ に作用し,エンドトキシンショックや大腸炎の症状を緩和できることを明らかにしてきた。本年度は,ペクチンが腸管上皮細胞へ及ぼす影響ならびにその生理調節作用の発現に重要なペクチンの分子構造を調査した。1. ペクチンが,下痢原性大腸菌のマウスモデルCitrobactor rodentiumの腸管上皮細胞への感染を阻害することを明らかにした。この感染阻害経路では,ペクチンは腸管上皮細胞へ直接作用するのでなく,C. rodentiumに直接作用し,増殖を阻害していることペクチンの主鎖と側鎖の両方がC. rodentium増殖阻害に必須であることを明らかにした。2. 柿由来のペクチンを抽出し,その化学構造の特徴と腸管上皮細胞への影響を調査した結果,柿由来のペクチンは天然では珍しい低メトキシ化ペクチンであることを発見した。他のペクチンと同様に柿由来ペクチンにも,陰窩細胞の増殖を促進させる腸管上皮細胞由来の液性因子の放出を誘導する作用があることを確認し,この作用はペクチン側鎖中のアラビノガラクタンを介している可能性を示した。3. 老化モデルマウスであるSAMP8マウスへ柿由来ペクチンを投与し,腸管絨毛の形態が変化するのかを調査した結果,ペクチンの効果は限定的であった。SAMP8マウスは,腸管における老化の表現型については野生型マウスとは異なる可能性が示唆された。以上の結果より,ペクチンは,腸管上皮細胞にも従来のプレバイオティクス作用とは異なる経路で作用し,生理機能を調節している可能性が示唆された。
3: やや遅れている
1. Covid-19感染拡大により,数ヶ月間の大学・研究室の閉鎖があり,その間の研究・実験が完全にストップした為。大学再開後もパンデミックによる試薬・備品の入荷遅延や感染対策などから研究が充分に行えない状況が続き,当初の予定を大幅に後ろ倒しにした為。2. マクロファージ のみならず上皮細胞においてもペクチン側鎖の重要性が示されたが,より詳細なオリゴ糖残基の情報を得られておらず,側鎖結合タンパク質の検出にも未着手である為。
マクロファージと上皮細胞を材料にペクチン側鎖の結合を可視化し,側鎖に特異的に結合するタンパク質を検出する実験系を構築する予定である。さらに,マクロファージ細胞には,ペクチンを認識し,炎症性シグナル伝達を調節する分子を発現している可能性が示唆されていることから,阻害剤やRNA干渉によりシグナル分子の機能抑制によりペクチン刺激が影響を受けるのかを否かを調査することで,シグナル伝達経路を明らかにする。
新型コロナ感染拡大による緊急事態宣言の発令により数ヶ月間の大学閉鎖期間があり,その間に使用予定だった経費を使わなかった為,次年度に使用する予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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