研究課題
我々はこれまでに水溶性食物繊維の一種であるペクチンが,腸管を構成する細胞に働きかけ,プレバイオティクス作用とは異なる経路で炎症応答を制御していることを明らかにしてきた。とりわけ,ペクチンを構成する中性糖側鎖が,炎症抑制に重要な役割を果たすことを報告してきた。本年度はペクチン主鎖の化学構造と炎症応答との関連を調査し,以下の点を明らかにした。1) ペクチン主鎖を構成するガラクツロン酸の一部はメチルエステル化されており,その割合が炎症抑制活性や腸内細菌による短鎖脂肪酸の産生能に影響を及ぼすことが示唆されていた。我々は,メチルエステル化の割合のみならず,メチルエステル基の分布も異なる複数のペクチンをドキソルビシン誘導性腸炎マウスへ経口投与し,その影響を調査した。その結果,メチルエステル基が連続したガラクツロン酸に集中している場合の方が,ランダムにメチルエステル化されている場合よりも炎症の抑制効果が強いことを発見した。2) これまでに我々は,側鎖含量が高いペクチンを給餌すると大腸炎モデルマウスの症状を緩和できることを報告している。今回,メチルエステル化度の異なるペクチンを大腸炎モデルマウスに給餌した場合の病態を解析した結果,高メトキシルペクチン給餌により大腸炎が緩和する一方,低メトキシルペクチンには,大腸炎の予防効果は認められなかった。大腸組織中のIL-1β産生量が高メトキシルペクチン給餌により有意に低下していたことから,ペクチン主鎖のメチルエステル化度がIL-1β産生に影響を及ぼすことを発見した。以上の結果は,ペクチンの抗炎症作用には,ペクチン側鎖のみならず,主鎖のメチルエステル化度や分布も重要であることを示しており,ペクチンの構造を認識し炎症応答を減弱させる分子が腸管に発現していることが示唆された。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Molecular Nutrition & Food Research
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