研究課題/領域番号 |
19K05884
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
八代 拓也 東京理科大学, 基礎工学部生物工学科, 講師 (00726482)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エノン脂肪酸 / 免疫抑制 / T細胞 / 樹状細胞 |
研究実績の概要 |
食事から摂取した脂肪酸は、エネルギー源になるだけでなく、種々の受容体への結合を介して生体調節機能を示す。多価不飽和脂肪酸 (PUFA)には、二重結合の位置により定義されるω3系とω6系があり、それぞれ抗炎症作用と向炎症作用を示すことが知られている。近年、腸内に生息する乳酸菌がPUFAを代謝することが見出され、水酸化や、脱水素・異性化反応を介して、宿主の代謝とは異なる脂肪酸を生じることが明らかとなった。本研究では、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸を初発物質として乳酸菌代謝を介して得られる水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸、エノン脂肪酸の計9種類について、免疫系に及ぼす影響を解析した。 卵白アルブミン特異的T細胞受容体のトランスジェニックマウスから脾臓細胞を調製し、抗原提示条件下で各種脂肪酸を添加してT細胞活性化に対する影響を解析した。その結果、水酸化脂肪酸とオキソ脂肪酸では影響がなかったのに対し、エノン脂肪酸はT細胞の活性化を著しく抑制することが明らかとなった。エノン脂肪酸の作用点を明らかにするため、各種免疫細胞を単離し、それぞれに対する影響を解析した。その結果、エノン脂肪酸は抗原提示細胞に依存しないT細胞の活性化も抑制することが示された。また、樹状細胞に対するエノン脂肪酸の影響を解析したところ、LPS刺激依存的な活性化を抑制することが明らかとなった。 以上の結果から、エノン脂肪酸はT細胞および樹状細胞に作用することでそれらの活性化を抑制し、免疫抑制を及ぼすことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は当初の研究計画通りに、エノン脂肪酸の応答細胞の同定に取り組んだ。予想していた通り、エノン脂肪酸はT細胞に直接作用してその活性化を抑制していることが証明された。加えて、エノン脂肪酸は抗原提示細胞の一種である樹状細胞にも作用して、その活性化を抑制することが明らかとなり、T細胞活性化を間接的にも抑制していることが示された。 進行の遅れもなく計画をクリアしていることから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
エノン脂肪酸の応答細胞が明らかとなったことから、分子レベルでの作用機序の解明に取り組んでいく。特に、エノン脂肪酸に特徴的な構造を認識する受容体が存在することが予想されることから、エノン脂肪酸を固定化した磁気ビーズを用いて結合タンパク質を単離、同定する。加えて、アレルギーや自己免疫疾患のモデル動物を用いてエノン脂肪酸の摂取が症状を改善できるかについて検証することで免疫疾患に対する予防効果を示していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた学会が新型コロナウイルス感染拡大のため中止になり、その分の旅費が不要になったこと、研究が当初の計画よりもスムーズに進行したため、消耗品購入費が当初の請求額を下回ったことが大きな理由である。 次年度では標的分子の同定とin vivoでの解析を行う予定であり、標的分子が早期に同定できた場合には、ノックアウトマウスを導入した解析を行うことも考えており、計画段階よりも使用額が増える可能性がある。
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