食品が有する機能性についての研究は、従来単一の食品含有成分に着目したものがほとんどであり、生体の生理的状態や血液成分変化の検討が必要であることから実験動物を用いた侵襲的手法が中心となっている。しかしながら、食品が喫食者にどのような感覚を引き起こし、情動にどう影響するのかについては、実験動物では捉えがたい。また、ヒトが通常喫食する状態は、食材単体ではなく複合的な要素をもつ料理であり、食経験や嗜好が精神的効果として少なからず関与している。本研究は、日本食がもつ食感動性の要素を明らかにすることを最終目標とし、それに向けた主観的な気分状態と自律神経活動評価、唾液線活動ならびに精神的発汗などの客観的指標との相互関係性を解析可能にする統合的手法の確立を行ってきた。喫食により起こる情動の変化は、気分アンケートとVisual Analog Scale(VAS)に基づき評価し、加えて自律神経活動、唾液腺血流量、精神性発汗の客観的指標との関連性を追求した。料理における美味しさや食感動性に対して香りの影響を評価するため、ノーズクリップを用いて匂いをブロックした検証を行った。また、酸味を連想させるものを対象試料として、唾液腺活動に視覚および嗅覚がどの程度寄与しているかについても検討し、マルチモーダルな感覚情報の寄与に関するデータ収集を行った。その結果、主観的なおいしさやもう一口食べたいという情動に対して、食品の匂いは大きく寄与することが観察されたが、唾液腺活動は匂い遮断による変化が認められなかった。一方で、酸味を想像させる食品に関しては、視覚情報の入力や匂いにより唾液腺活動の変動が認められた。また、精神性発汗による測定では、喫食前後での嗜好度評価が上昇するほど精神性発汗量の喫食/観察比が高くなることが示され、情動変化を伴う嗜好度変化の指標として精神性発汗量の喫食/観察比の利用可能性が示された。
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