研究課題/領域番号 |
19K05888
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
小竹 英一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, 上級研究員 (20547236)
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研究分担者 |
今場 司朗 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, 上級研究員 (20332273)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ビタミン / 有機合成 / 腸管吸収 / 代謝変換 / フレイル / ロコモーティブシンドローム |
研究実績の概要 |
ビタミンD(VD)は当初は抗クル病の脂溶性ビタミンとして発見されたが、現在では様々な疾病(癌、糖尿病、感染症、うつ病等)予防にも関与していることがわかってきている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しても効果があることが報告されてきている。 日光浴により皮膚でVD3が生合成可能であるが、地理的要因によっては困難な上に、日光には皮膚癌、白内障等のリスクがある。VDは食品から摂取可能であるが、VD3を魚介類と鶏卵から、VD2をキノコからと限定され、特にビーガンやベジタリアンでは摂取不足に陥りやすいが、そうでなくても摂取不足になりやすい。VD欠乏は自覚症状が乏しく、母親がVD不足では新生児にも影響が出る。VD不足の母親が母乳に拘ると新生児にクル病が懸念される。高齢者では骨折等からロコモ、要介護の要因となるが、介護に至る前のフレイルを予防することが重要であり、VD摂取の重要性が高まる。 このような問題に対して、申請者はVD摂取機会の増加を目的として、VD4、5、6、7についての生体利用性に関する研究を行ってきた。また、申請者が有する脂溶性成分に対する吸収促進法を適用することで少ない摂取機会での効率的な吸収についても検討を行ってきた。 VD5、6、7の有機合成研究過程で、新規VDの創製を思いついた。分担者の協力下、2019年度は出発物質のステロールから有機合成をはじめ、新規VDを2つ得た。VDが何らかの機能(性)を発揮するためには活性化体へと代謝変換されなければならない。あるいは、それをさらに有機合成する必要がある。まずは計算化学的手法により活性化体の機能性を評価した。2020年度では、これら新規物質の物質特許を出願した。また、一部の内容について論文化し、出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
特許出願、結果の一部について論文化を実践したものの、進捗は遅れ気味と考える。 1、新規VD合成:2020年6月末に新規物質として特許を出願した。その機能(性)は計算科学的手法で明細書内で示した。 2、吸収促進メカニズム:脂溶性成分は消化管で胆汁ミセルに可溶化されて吸収される。申請者は過去にカロテノイドの腸管吸収研究を行っており、極性脂質が吸収促進する現象と機構について報告してきた。機構についてはカロテノイド以外の脂溶性成分にも適用できそうである。そこでこの吸収促進技術をVDへ応用し、少ない摂取機会で効率的な吸収を目指す。促進機構には細胞間結合の関与まで明らかにしていたが、2019年度は細胞内コレステロールを直接定量し、その関与を確認した。コレステロールの内容については2020年度に論文で報告した。2種類の新規VDについては、1種類はVD3と同等の吸収性を、もう一種類はVD3よりも高い吸収性を示した。 3、ゲノム編集細胞:脂溶性成分の腸管吸収に関与する因子のノックアウト(KO)細胞を樹立中で、シーケンスとウェスタンブロットでKOされているかどうかを調べたが、2020年度はKOされた証拠が得られなかった。2021年度はKO細胞の開発を継続する。 4、代謝変換:培養細胞を使って代謝変換を前年度に引き続き検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
下記4点について並行して推進中である。 1、腸管吸収:新規VDについて、腸管モデル細胞Caco-2を用いて吸収を調べている。2020年度に細胞への取込み部分のみを調べたが、2021年度はトランスウェルを用いて取込みに加えてリンパへの輸送まで調べる。 2、ゲノム編集細胞:脂溶性成分の腸管吸収は、単純拡散と促進拡散の両方が関与していると考えている。VDについても同様の促進因子が関与していることが想像できる。過去、その因子に対する阻害剤やsiRNAを検討したが、より直接的な関与を調べるためゲノム編集でノックアウト(KO)した細胞を外注にて作製した。Caco-2を親株として、KO細胞を得ていたと思っていたが、2020年度にKOを確認できなかった。今後は外注任せではなく、自らの手で作製を試みる。 3、代謝変換:VDは体内に吸収されたのち、肝臓で1段回目の、腎臓で第二段回目の代謝変換後に活性を示す。新規VDが代謝されるかどうかを確認するための実験系を構築継続中である。合成して得た量が少ないため、実験は少量スケールに限定される。そこで、トランスウェルのapical側に肝臓の、besal側に腎臓の培養細胞を使い、VDを添加して代謝産物が生成できるのか調べている。VDは申請者が有する液中乾燥法の技術を使って培地中に添加することで均一性と添加濃度を制御できる。既知のVDとしてはVD3で代謝を確認できるような実験系を検討中である。文献調査で、構築中の細胞系においてVD2では目的とする代謝産物が生成されない可能性がわかった。VD3の代謝とその産物の構造確認を行う予定で、その後に新規VDで代謝試験を行う。 4、天然の存在確認:新規VDは新規合成物質であるが、天然に存在している可能性があり、その検索研究を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
非常勤職員が2019年末で退職したため、人件費の当初の計画に狂いが生じたことが理由の一つであるが、その後に使用計画を見直して研究費を効率的に使用して発生した残額である。
2021年度は再び、非常勤職員を雇用予定であり、次年度に請求する研究費と合わせて研究計画遂行のために使用する。
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