細胞のエネルギー代謝が細胞の機能や分化を調節することが報告され、生体防御を担うT細胞において、解糖系が亢進すると、炎症を誘発することが報告されている。我々はこれまでに、ポリフェノールの1つであるプロシアニジンB2(PCB2)にガレート基を付加した化合物において、T細胞の活性化を強く抑制することを明らかにした。しかしながら、PCB2ガレートによる解糖系の制御を介したT細胞の機能制御について、詳細なメカニズムは明らかにされていない。そこで本研究では、PCB2ガレートによる細胞のエネルギー代謝調節を介した炎症制御メカニズムを明らかにする。 マウスT細胞を用いて、PCB2ガレートのサイトカイン産生および解糖系に対する影響を評価した。マウスより単離したCD4陽性T細胞に対して、抗CD3抗体および抗CD28抗体刺激下でPCB2ガレートを添加したところ、PCB2ガレートはT細胞の解糖系を阻害し、炎症性サイトカインであるTNF-αの翻訳を抑制する可能性が示唆された。次に、解糖系を制御するmTOR/HIF-1経路を解析したところ、mTOR、p70S6Kのリン酸化およびHIF-1の発現量はPCB2ガレートの添加で顕著に抑制された。加えて、LeucineまたはDMOGをPCB2ガレートと同時に添加したところ、PCB2ガレートによるTNF-αの産生抑制効果が阻害された。したがって、PCB2ガレートは解糖系およびmTOR/HIF-1経路の抑制を介してTNF-α産生を制御することが示された。さらに、CD4陽性T細胞における解糖系酵素を介したサイトカインの翻訳制御を解析したところ、LDHに結合したTNF-αmRNA量はPCB2ガレートの添加で有意に増加した。以上の結果より、PCB2ガレートはCD4陽性T細胞の解糖系シグナルを阻害し、LDHを介してTNF-αの翻訳を抑制することが明らかになった。
|