研究課題/領域番号 |
19K05901
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
野嶽 勇一 東京工科大学, 応用生物学部, 教授 (30332282)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 乳酸菌生産物質 / 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH) |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のモデルマウスに豆乳の乳酸菌発酵ろ液(以下、本発酵ろ液)を摂取させた結果、NASHの進行が抑制された。近年、NASHの病態と腸内細菌叢との相関を解析した知見が報告されていることから、本研究においても、本発酵ろ液が腸内細菌叢への影響を介してNASHの改善に寄与した可能性を検討することとした。 まず、MRS培地を用いてEnterococcus faecalisの細菌懸濁液を調製し、本発酵ろ液を添加した。E. faecalisの増殖に及ぼす影響を分光学的手法によって追跡した結果、本発酵ろ液によってE. faecalisの増殖が顕著に促進した。この作用実験を腸内細菌叢を構成する代表的なビフィズス菌と乳酸菌、合わせて21種の細菌についても実施したところ、Bifidobacterium longumやLactobacillus gasseri、Lactobacillus helveticusなど、大部分の細菌の増殖が促進された。一方、本発酵ろ液がClostridium perfringens(ウェルシュ菌)の増殖に対しては抑制的に作用したことから、本発酵ろ液にプレバイオティクス作用があることが示唆された。そこで、マウスの飼育時に回収した糞便を対象として、腸内細菌叢解析を行った。本発酵ろ液の摂取群ではBifidobacterium属や一部のLactobacillus属の細菌の割合が増加しており、本発酵ろ液のプレバイオティクス作用が支持された。次に、腸内細菌叢を構成する細菌の変化に伴う腸内環境の改善が期待された。そこで、マウスの飼育時に回収した糞便に含まれる代謝物を解析したところ、いくつかの短鎖脂肪酸が顕著に増加していた。 以上のことから、本発酵ろ液の摂取による腸内細菌代謝物の変化によって、脂質代謝やNASH病態が改善したことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳酸菌を用いた発酵食品の中で、バイオジェニックスに分類される食品がNASHの抑制に関与していることを示唆する報告は未だ十分ではない。本研究で研究対象とした豆乳の乳酸菌発酵ろ液は、調製の最終工程(ろ過)で菌体(乳酸菌)を除去していることから、腸管との観点からはバイオジェニックスに分類される。本発酵ろ液を摂取させたNASHモデルマウスの肝臓を対象として、本発酵ろ液による脂質代謝やNASH改善の作用点を見極めるためのDNAアレイ解析に基づいた研究を展開している。一方、今年度は本発酵ろ液がプレバイオティクス作用を示すことを示唆するデータも得ることができた。これにより、NASHの改善に関する作用機序として、本発酵ろ液に含まれる物質による直接的な肝保護ルートとは別に、腸内細菌叢への影響やそれに伴う腸管環境の改善などの間接的なルートが新たな候補となった。 この研究成果は、本研究全体の基盤となる重要なデータとして位置付けており、これまでの研究が順調に進展していることを示している。また、今後の研究において、本発酵ろ液が肝実質細胞の遺伝子発現や代謝経路に及ぼす影響を明確にしていく上で、強力な推進力となると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
高脂肪飼料に豆乳の乳酸菌発酵ろ液を混餌して摂取させたマウスについて、解剖時に回収した肝臓を対象として、DNAアレイ解析を引き続き実施する。現在、解析実験そのものと得られたデータの分析に精力的に取り組んでいるところであるが、研究最終年となることから、これをさらに加速させる。研究の方策としてはこれまでと同様に、肝実質細胞内での遺伝子発現の状態を網羅的に解析することにより、「本発酵ろ液によって発現量が変動した遺伝子」の特定に注力する。さらに、当該の遺伝子を対象としたゲノムデータベース検索を行い、その遺伝子が関与する代謝経路の候補を挙げる。次いで、代謝経路候補を構成する遺伝子群を対象として、定量PCR解析も実施する。これらの手順を経ることにより、「本発酵ろ液によって影響を受けた代謝経路とその影響の程度」を定量的に捕捉できるようになるため、NASHを改善する上での本発酵ろ液の作用点をより鮮明に浮き上がらせることができる。 今回、NASHと腸内細菌叢との関連性の一部を明らかにすることができたため、本発酵ろ液が腸内細菌叢に及ぼす影響についても、プレバイオティクスの観点から含有成分のメタボローム解析に取り組むこととする。
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