研究課題/領域番号 |
19K05903
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
角川 幸治 広島工業大学, 生命学部, 教授 (60441507)
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研究分担者 |
田中 武 広島工業大学, 工学部, 教授 (10197444)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プラズマベースイオン注入法 / 耐熱性芽胞菌 / 殺菌 |
研究実績の概要 |
複合ガスを用いたプラズマベースイオン注入(PBII)法を用いた食品殺菌技術の開発に向けて、殺菌効率向上の為、プラズマ密度に影響を与える要因について基礎調査を行った。具体的には、窒素ガス、酸素ガスそれぞれのプラズマ密度を、圧力、印加電圧、試料ステージの素材等を変更することによって測定した。その結果、窒素ガスは酸素ガスよりも低い印加電圧の状態からプラズマ密度が高く、印加電圧を上昇させた場合は、酸素ガスの方がイオン密度が高くなる傾向が見られた。 次に、サンプルを固定するステージの素材を変更し、プラズマ密度の比較を行った。その結果、導電材料であるステンレスを用いた方が絶縁材であるガラスを用いるよりもプラズマ密度が上昇したが、酸素ガスを用いた場合、ステンレスを用いて-7kV以上の電圧を印加させることは、装置の安全上、出来なかった。その結果、イオン密度が最も高い4.88×1013(kg/m3)を示した条件は、サンプルステージにステンレスを用い、印加電圧が-8kVの時であった。その条件下での殺菌効果は、Geobacillus stearothermophilusが1D、Staphylococcus aureusが2.5Dであり、イオン密度の上昇が殺菌効果の上昇と関係していることを証明できた。また、将来的に、食品素材に対する殺菌を行う場合、窒素ガスを用いた方が食品素材の酸化抑制につながると考えられるため、本結果は、PBII法の食品殺菌装置の応用に向けて、期待の持てる結果が得られたと考えられる。 次に、酸素と水素の複合ガスを用いて殺菌効果の確認を行った。その結果、RF電源を用いない条件下でも、G. stearothermophilusの耐熱性芽胞に対して2.5Dの殺菌効果を得ることが出来、酸素ガスや窒素ガス単独で行うよりも優れた殺菌効果を得ることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主たる研究装置であるRF電源装置付きの高出力対応型プラズマ処理装置が故障した事にある。本研究には、RF電源装置付きの高出力対応型プラズマ処理装置とRF電源を有さない自己点弧型プラズマ処理装置の二台を用いて実験を行う予定であった。しかし、昨年の7月からRF電源装置付きの高出力対応型プラズマ処理装置が不調に陥り、その原因究明に時間がかかり、修理部品の調達も、海外製の部品があったことから難航し、最終的に修理が完了したのは本年の2月中旬であった。その為、当該装置については、2月~3月に複合ガス対応装置への改造を終えるのが精一杯となり、RF電源を用いた高出力状態での実験は行う事が出来なかった。 その為、令和元年度の実験は、そのほとんどをRF電源を有さない自己点弧型プラズマ処理装置を用いて行う事となった。 しかしながら、単独ガスを用い、サンプルステージに導電性の異なるサンプルを用いた状態で印加電圧などのパラメーターを変化させる事で、イオンシースを安定的に形成し、イオン密度を上昇させる条件の端緒を見いだすことが出来た。また、RF電源を有さない自己点弧型プラズマ処理装置を用いた場合は、耐熱性芽胞の殺菌効果はほとんど無いが、複合ガスを用いた予備実験では1Dの殺菌効果を得ることが出来た。RF電源を用いた高出力対応型プラズマ処理装置では、6Dの殺菌効果が単独ガスを用いた場合でも得られることが分かっていることから、複合ガスを用いた場合の殺菌効果の改善が大いに期待できる結果が得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在所有している2台のプラズマ処理装置については、予期せぬ装置の故障があったため予定が遅れはしたが、複合ガスプラズマを使用できるよう改造を行う事は出来た。また、RF電源を用いた実験は出来なかったものの、複合ガスを用いてプラズマを発生させることで、単独ガスを用いた場合よりも、殺菌効果を向上させることが出来る事は分かった。次年度については、前年度の知見に基づいて、複合ガスプラズマを発生させた場合の、イオンシースの安定性、イオン密度について調査を行い、殺菌に効果的な制御パラメーターの絞り込みを行っていく。その際、Geobacillus stearothermophius及びStaphylococcus aureusを用いて耐熱性芽胞及び栄養細胞に対する複合ガスの殺菌効果について検証を行うと共に、電子顕微鏡観察等を用い、化学的作用と物理的作用の併用効果の確認を行い、複合ガスが殺菌効果を向上させるメカニズムの解明を行う。また、表面観察を詳細に行う事で、複合ガスプラズマによる表面エッチング効果の確認を行い、最終年度の食品素材を用いた研究につなぐべく研究を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、2台のプラズマ処理装置を用いて実験を行っている。その中で主力装置であるRF電源付きの高出力プラズマ処理装置が夏過ぎに故障し、修理対応を行っていた。その修理が本年2月に完了し、その後、複合ガス処理に向けての改造に着手したが、その部品代、改造費等が予算執行締めきり日直前まで定まらなかったため執行できず、結果として、差額が生じた。差額は次年度、予定どおり部品代、改造費等に充てる。
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