苦味受容体(Tas2R)は口腔内で苦味成分を感知して情報を脳へと送り、体にとって有害な成分を忌避するために存在すると考えられている。しかし、口腔以外の様々な組織細胞にもTas2Rは発現していることが知られており、気道や消化管内での役割が明らかにされつつある。一方で体内組織細胞におけるTas2Rの発現と機能は不明であったが、各種報告から有害成分への対応以外の機能が示唆されたため、その発現状況と役割について解析している。 昨年度までに脂肪細胞や肝細胞のモデル細胞に苦味化合物を投与すると、苦味受容体の遺伝子発現が変動することを示し、この組織において苦味受容体が機能していることを推定していた。今年度は、苦味受容体のリガンド化合物を3T3-L1脂肪細胞に投与した際の遺伝子発現変化のRNA-seq解析を行い、遺伝子発現の変化を網羅的に解析することで脂肪細胞における苦味受容体の機能を推定した。遺伝子オントロジーエンリッチメント解析から脂肪細胞の分化に関わる機能が示唆されたため、つづいて、苦味受容体を過剰発現させた3T3-L1細胞を作製して解析した。その結果、推定した機能に基づいた細胞の表現型の変化がみられることを確認し、脂肪細胞にけるTas2r機能の一端を明らかとした。 次に肝細胞におけるTas2r機能を推定するため、Tas2rを肝細胞のモデルであるHepa1-6細胞に過剰発現させ、苦味化合物を投与した際の遺伝子発現変化のRNA-seq解析を行い、遺伝子発現の変化を網羅的に解析した。解析結果を、IPA解析に付したところ、味覚伝達経路やカルシウムシグナル経路を含めた経路への影響が浮かび上がってきた。今後これら経路について解析を行っていくことで肝臓のモデル細胞であるHepa1-6細胞におけるTas2r機能を明らかにすることが期待される。
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