研究課題/領域番号 |
19K05909
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
長澤 孝志 岩手大学, 農学部, 教授 (80189117)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シトルリン / アミノ酸 / 骨格筋 / オートファジー / アルギニン / C2C12筋管細胞 |
研究実績の概要 |
高齢化社会において、持続性のある社会を築くためには健康寿命の延伸が重要である。健康寿命の妨げになるのがロコモティブシンドロームであり、特に骨格筋の萎縮、サルコペニアの防止が喫緊の課題である。アミノ酸、特にロイシンは骨格筋タンパク質の合成を促進し、分解を抑制することから、加齢時のサルコペニアで問題となる骨格筋萎縮を抑制できる可能性が知られている。私たちはロイシンの他に、リジンでも同様の効果が認められることを明らかにしている。また、タンパク質合成に用いられないシトルリンにも骨格筋タンパク質合成促進作用があることが報告されているが、私たちは分解についても抑制作用があることを示した。しかし、シトルリンの分解抑制作用がシトルリンそのものによるのか、また他のアミノ酸との関係については不明であった。 シトルリンとアルギニンのラットへの同時投与が単独投与に比べ促進効果があるかラットを用いて検討を行った。その結果、シトルリン単独投与に比べシトルリンとアルギニンを同時に投与すると血中のアルギニン濃度を長時間高く維持でき、オートファジーの指標となるLC3-IIの発現も混合液投与で有意に抑制される可能性を明らかにした。また、同時投与は翻訳段階の指標でありmTORの下流に位置する4E-BP1およびS6K1のリン酸化を単独投与より増加させ、タンパク質合成が促進されていることが示された。さらに、シトルリンの代謝により生成する一酸化窒素の関与について阻害剤を用いて検討したところ、一酸化窒素は関与していないことが示された。 C2C12筋管細胞を用いた検討では、アミノ酸飢餓培地でシトルリン単独添加ではLC3-IIの発現を抑制せず、シトルリン単独ではタンパク質分解抑制作用を示さないことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で明らかにしたいシトルリンと他のアミノ酸の相乗効果については、in vivoの実験からシトルリンとアルギニンの同時投与で作用が増強され、骨格筋萎縮抑制の可能性を示した。この成果は日本アミノ酸学会学術大会における発表で高く評価された。代謝的に関連が深いシトルリンとアルギニンは一酸化窒素サイクルでも関連しているが、阻害剤を用いた検討から一酸化窒素は相乗効果に関連していない可能性が示唆された。これらの検討は当初の予定通り順調に進んでいる。 培養細胞を用いたin vitroのシトルリンの作用機構は、飢餓培地におけるC2C12筋管細胞の条件検討に時間を費やしたが、シトルリン単独では分解抑制作用を示さないことを再現性良く示すことができ、おおむね順調に検討は進んでいる。 単離筋肉切片を用いたシトルリンと他のアミノ酸の作用の検討は、培養液中に大量に含まれる当該アミノ酸の影響で分解速度を測定するために必要な3-メチルヒスチジンの定量が困難であることが判明した。イオン交換樹脂を用いた前処理も検討したが回収率が悪く技術的に解決が難しかった。ウエスタンブロットによる分解・合成の調節因子の解析は実施できることがわかり、筋肉切片のインキュベーション時間など条件検討を2019年度に終えることができた。今後、このex vivoの系でシトルリンの作用をI型、II型の筋組織の反応の相違の観点からも検討できるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は培養筋細胞とex vivoの系による検討を中心に実施する。C2C12筋管細胞を用いて、シトルリンとそれ以外のアミノ酸の添加で骨格筋タンパク質の分解抑制および合成促進作用が見られるか検討を行う。具体的には、最小濃度のアミノ酸培地であるDMEM培地においてシトルリンがタンパク質代謝に対してどのような作用が見られるか解析する。さらにin vivoで効果が確認されたアルギニンとの相乗作用についても検討を実施する。 単離筋肉切片を用いたex vivoの系では、引き続き条件検討を行う。このex vivoの系においてアミノ酸によるタンパク質代謝を検討した例はほとんどなく、タンパク質代謝に対する実験条件が確立されていない。単離筋肉切片では培地にグルコースを添加してあるが、細胞としては生存時間が限られる。このような状態でインキュベーション開始からの分解・合成の調節因子の変動の継時変化をすでに分解抑制作用が明らかになっているロイシンを用いて詳細に検討する。I型、II型の筋組織は糖質、脂質代謝の役割が異なり、それに伴いタンパク質代謝にも影響するミトコンドリア関連因子の発現も異なる。そこで、ロイシンによるこれらの発現の相違を明らかにする。実験系が確立された後に、シトルリンの作用をこの系で調べる予定である。
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