高齢者の著しい増加に伴い動ける体づくり、すなわちフレイルやロコモティブシンドロームの状態ならないように骨格筋量の減少を抑制することに関心が集まっている。タンパク質の摂取あるいはアミノ酸、特にロイシンやリジンの摂取が骨格筋タンパク質の合成を促進し、分解を抑制することを私たちをはじめ多くの研究により示されているが、タンパク質構成アミノ酸ではないシトルリンにも同様の作用があることを私たちは見出した。しかし、シトルリンはin vivoの摂取では効果があるものの、培養筋細胞や単離筋肉切片においては効果が明確でないことが昨年度までの検討で明らかになった。その原因としてシトルリンの代謝関連物質であるアルギニンの存在が重要である可能性が考えられたので、本年度は培養筋細胞を用いてシトルリンとアルギニンなど他のアミノ酸の同時培養が骨格筋タンパク質の合成、分解に与える影響を検討した。 C2C12筋管細胞をアミノ酸フリーの培地でシトルリンあるいはロイシン、リジンとともに培養したところ、ロイシン、リジン添加培地ではオートファジーマーカーであるLC3-IIの発現が減少したが、シトルリンでは減少しなかった。また、タンパク質合成の翻訳段階のマーカーであるS6K1のリン酸化もロイシン、リジンでは増加したが、シトルリンでは変化がなかった。ところが、C2C12筋管細胞を必要最小限のアミノ酸が含まれるDMEM培地でシトルリンとともに培養するとタンパク質分解マーカーの減少、合成マーカーの増加が認められた。そこで、シトルリンとアルギニンなど他のアミノ酸を同時に添加してS6K1やその上流のAktのリン酸化を検討したところ、同時投与の効果は認められなかった。In vivoの検討も合わせ、シトルリンの作用には他の特定のアミノ酸の存在ではなく、多くのアミノ酸が存在していることが必要であることが示唆された。
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