微量栄養素の機能解明において、当該栄養素欠乏からの回復過程を時系列的に解析する手法が有効だが、亜鉛においてはこのような手法の適用が困難である。その理由として亜鉛欠乏ラットに特有な3~4日を周期とした摂食量の増減(cyclic feeding; CF)の影響が推定される。そこで我々はCFを同期した新規亜鉛欠乏回復モデルを考案し、その有効性を検証することを目的として、CFの影響を特に受けやすいと推定される糖・脂質代謝における亜鉛の機能を解析した。 動物実験では、亜鉛欠乏ラット(ZD)と通常食を亜鉛欠乏群の摂食量と同量与えるPair-Fed(PF)群を作製した。ZD群を3群に分け、解剖3時間(3h)、24時間(24h)前に硫酸亜鉛溶液を腹腔内投与し、亜鉛無投与群(ZD群、PF群)には、生理食塩水を腹腔内投与した。各群から肝臓を摘出し、各測定項目に適した処置を施した後、用事まで-80℃で保存した。次いで、DNAマイクロアレイおよびメタボローム解析を行い、亜鉛投与の影響を受ける糖質・脂質代謝関連分子を探索した。 DNAマイクロアレイによる遺伝子発現の網羅的解析を行った結果、亜鉛投与に応答すると推定される糖質・脂質代謝に関連する遺伝子発現の変動が見受けられた。このうち、ZD群に対して3h群、24h群でとも発現量比に変動が認められた遺伝子は、表皮型脂肪酸結合タンパク質など全8種類でった。一方、メタボローム解析の結果、ZD群に対して24h群においてDNAマイクロアレイの結果を支持する糖代謝に関連した代謝物質の変動が認められた。今後は、両試験法にて絞りこまれた候補分子について再現性の確認を進める予定である。 本研究の結果、亜鉛が関与する可能性のある糖質・脂質代謝関連分子を検出することに成功し、亜鉛の生理機能の解析において、CFを同期した亜鉛欠乏回復モデルの一定の有効性を確認することができた。
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