研究課題/領域番号 |
19K05921
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
長谷 靜香 福岡工業大学, 工学部, 准教授 (10448821)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 未熟温州ミカン / 緑茶三番茶葉 / 可溶性ヘスペリジン / 抗肥満作用 / レプチン感受性向上 |
研究実績の概要 |
未熟で間引き・廃棄される温州ミカンと劣質な緑茶三番茶葉の有効活用のため、両者を混合発酵して製造された茶葉を開発した。先行研究では、本茶葉の熱水抽出物(茶飲料)の成分を凍結乾燥により粉末化した後、実験動物の飼料に添加していた。しかし、食餌への添加量の増大により摂食量の低下傾向が観察されるため、より高い効果を得るための最大添加量が制限されてしまうことが問題点であった。 そこで本実験では、未熟ミカン由来の豊富なヘスペリジンの可溶性が飛躍的に向上した「可溶性ヘスぺリジン高含有茶飲料」という本茶飲料の特徴を生かし、抽出物の成分(粉末)ではなく、実際にヒトが摂取する形態である液体(茶葉の熱水抽出物)として、給水器にてC57/BL6Jマウス(雄、5週齢)に自由飲用させた。飼育期間は2、4、もしくは6週間とし、AIN-93G組成に基づく高脂肪食(14%ラードおよび1%大豆油)を自由摂食させた。 その結果、飲用量は水摂取群と比較して茶飲料摂取群で増大し、摂食量は群間に差異は見られなかった。茶飲料の摂取により、いずれの飼育期間においても体重および白色脂肪組織重量の顕著な低減が観察されたことから、本茶飲料は明確な抗肥満作用を発揮することが示唆された。また、茶飲料の摂取により肝臓トリグリセリドおよびコレステロール濃度の低下も観察された。さらに、血清グルコース濃度の低下が観察され、血清レプチン濃度は飼育期間が長くなるほど増加し、いずれの飼育期間においても茶飲料の摂取により有意に低下した。これらのことから、本茶飲料の抗肥満作用は、レプチンの感受性向上による糖および脂質代謝改善により一部発揮される可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本茶飲料を、抽出物の成分(粉末)としてではなく実際に飲用する形態である液体として摂取させることにより、従来の粉末添加によって観察された摂食量の低下を引き起こすことなく、これまでより強い抗肥満作用が発揮されたことが初年度の最大の成果である。しかし、今後は給水器による自由飲用ではなく、胃ゾンデを用いるなど定量的な投与により、有効成分の投与量と抗肥満効果の程度との関係を明らかにする必要があると考えられる。 本茶飲料は、本来は水に難溶であるヘスペリジンが、カテキン類やその酸化発酵により生じる紅茶ポリフェノールとの共存により可溶性が向上していることを特徴とする紅茶である。よって、ヘスペリジン単独や糖転移ヘスペリジンの摂取、もしくは一般的な紅茶の摂取による効果との比較を行う必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度(2年目)は、本茶飲料の抗肥満作用のメカニズム解明をさらに進める。具体的には、初年度に飼育を実施したマウスの糞サンプルについて、脂質排泄量を測定することにより、肝臓中のトリグリセリドやコレステロール濃度の低下、および白色脂肪組織重量の低下のメカニズムとして、体外排泄が一因となっているか検討する。また、肝臓中の脂肪酸組成の分析により、飽和脂肪酸:不飽和脂肪酸の比率やn-3系:n-6系の比率を求め、リピドミクスについて検討する。一方、本茶飲料はポリフェノール類を多く含むことから抗酸化作用を有することがin vitro実験により明らかとなっているが、摂取後の生体パラメータに反映されないのが現状である。そこで、酸化還元分析装置(REDOXLIBRA)を用いて、種々の疾患状態と相関する酸化ストレス測定や抗酸化力測定を行うことで、抗酸化を介した抗肥満作用について検討すると同時に、酸化還元の動向から求められるレドックスオミクスと、前述の脂肪酸組成から求められるリピドミクスとの関係性を検討する。 次に、抗肥満作用のメカニズム解明として、当初の予定通りエネルギー消費促進に焦点を当て、ラットを用いた生体ガス分析装置による呼吸商測定や、脂肪と筋肉中の熱産生分子であるUCP(Uncoupling protein) の発現量を測定する。
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