研究実績の概要 |
ナノマテリアル (NMs) の工業的利用の増加に伴い、食品を介したNMsのヒトへの曝露による安全性が懸念されている。NMs含有製品のうち銀ナノ粒子 (Ag-NPs) 含有製品の割合は多く、抗菌性を目的とした医療器具・食器等などにAg-NPsが使用されている。そのため、様々な経路からAg-NPsのヒトへの曝露が起こる可能性があり、環境中に放出されたAg-NPsを魚介類が吸収することで、ヒトが曝露する可能性も懸念される。 単一粒子 (sp)-ICP-MS法は、金属ナノ粒子を分析するための簡便かつ強力な方法である。しかしながら、食品のような固体試料からナノ粒子を抽出する方法は確立されていない。そこで、sp-ICP-MS法へ供する前処理法について検討を行った。初年度に行った前処理法に関して疑義が生じたことから、前処理法について再度検討した。その結果、酵素溶液を添加し超音波処理を行い、37°C、60分で分解を行った後、限外濾過フィルターを用いてAg-NP画分を分離する前処理方法が最も有効であることが示された。この前処理法を、牡蠣試料へ適用したところ、平均粒径24~32 nm、最大粒径 63~361 nmのAg-NPsを検出した。Total Ag濃度が増加するほどAg-NPの粒子数濃度は有意に増加することが明らかとなった。 また、コンポジット試料をもちいて、平均的な日本人のAg-NPの曝露量を推定したところ、Total AgおよびAg-NPの曝露は、1.91~4.87および1.78~1.79 μg/person/dayと推定された。また、粒子数としては1.4×10^10~1.5×10^10 particle/person/dayと推察された。HadrupとLam [2014, DOI: 10.1016/j.yrtph.2013.11.002] が導出したAg-NPのTDI (2.5 μg/kg-bw/day) と比較すると、HQは1.3%と推定された。現在得られたデータから判断すると、Ag-NPの食事性曝露による健康リスクは小さいと推定された。
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