研究課題/領域番号 |
19K05925
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小酒井 貴晴 山形大学, 地域教育文化学部・理工学研究科, 教授 (70391480)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腸管上皮 / 腸管オルガノイド / Ussing-chamber |
研究実績の概要 |
フラボノイドの機能性に関する研究成果はすでに多く得られている。特に、生活習慣病に関する血糖値調節機序に関する研究は数多く報告されている。しかし、腸管のグルコース吸収の大部分を担っているNa+/グルコース共輸送体1(SGLT1)の輸送活性に及ぼすフラボノイドの影響は依然不明なままである。また、通常の平面培養系や上皮ガン細胞のインサート培養系による過小・過大評価されている可能性もある。 そこで、本申請課題は、1)粘膜側と血液側の仕切り(極性)が維持されている正常細胞のオルガノイド培養系により、生体の生理条件に類似したグルコース吸収評価系を確立させ、2)各種フラボノイドによるグルコース吸収阻害活性の差異とその作用機序を、Ussing-chamber法(従来法)と比較・検討する。 特に、ポリフェノールの一種であるフラボノイド(アグリコン)の配糖体、アントシアニンなどは、グルコース吸収を阻害すると報告されている一方で、これらフラボノイド分子自身がSGLT1を介して細胞内へ取り込まれるとも報告されている。もし、SGLT1を介するならばNa流が検出できるはずであるが、その現象は認められていない。アントシアニンが本当にSGLT1輸送活性を阻害するのかどうかを、細胞極性を維持できる従来法(Ussing-chamber法)と本実験での新規評価法(オルガノイド培養法)を比較しながら、この真偽を明確にする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
正常な単層上皮膜を形成するオルガノイド(球状細胞塊;内側が粘膜側、外側が血液側)の培養系を用いたSGLT1阻害評価系の構築を目指した。まず最初に、マウス腸管からオルガノイドを作成し、オルガノイドを顕微鏡下で微小な吸引用ピペットにて固定した上で、注入用微小ガラスピペットを粘膜側(内部)へ挿入することを目指した。 吸引用ピペットと注入用微小ガラスピペットは、シングルセルパッチクランプ法で用いる物を試そうとしたが、細胞用のピペットではガラス径が小さすぎて、取り扱いが困難であった。また、受精卵を取り扱うピペット向けのガラス管を用いて、微妙な径を調整しながら、ガラスピペットを自作した。ガラスピペット自体はうまく作成できたが、受精卵を吸引するマウス法では陰圧を調整することが難しく、安定的にオルガノイドを保持することが困難であった。なかなかオルガノイドの保持が成功しなかったが、上記の検討と同時に、供試できるオルガノイド数を効率的に増やして、実験供試数を確保するために低酸素条件を検討した。繊維芽様細胞は増殖したが、上皮幹細胞によるオルガノイド数は増大しなかった。 一方で、比較のためのUssing-chamber法でのグルコース吸収阻害効果を検討した。二量体であるプロアントシアニジンA-2は、小腸におけるグルコース誘導性短絡電流値を抑制させた。この結果から、フラボノイドなどのポリフェノールが糖吸収を抑制するという実験結果を追認する結果を得ることができた。 実験方法の確立に関しては1月から新型コロナ感染症対策のための実験環境の使用制限なども徐々に加わり、少し当初計画より遅れてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
2年次に解決しなければならない課題は、オルガノイド実験系の確立である。Ussing-chamber法での追試はすぐに検討可能なので、オルガノイドによる吸収阻害効果の検討法を確立することが急務である。 具体的には、まず、卵細胞を保持するガラスピペットを用いて保持する最適陰圧を検討する。この技術でオルガノイドを培地中で持ち上げることが可能となる。次に検討しなければならないのが、内部へのポリフェノール刺激法である。放射性3Hで標識した2-デオキシグルコース(2-DG:グルコースと同様の細胞内動態を示すが、グルコースと違って代謝されないので、吸収された2-DGは細胞内に残る)を、ポリフェノールと同時に投与して細胞内に取り込まれた放射活性を測定する。ただし、近年は放射性物質の利用を減らすようになっており、本実験でも酵素反応を利用した蛍光検出法(市販キット)も平行して検討する。管腔側内のポリフェノールや糖の濃度は、非吸収性マーカー(フェノールレッドやポリエチレングリコール)を注入液に混合させておき、補正に用いる。 一方で、比較のためのUssing-chamber法でのグルコース吸収阻害効果はすぐに検討できるので、すでに既知として知られているプロアントシアニジン以外のフラボノイドの効果の検討をすすめて、阻害効果のタイプ(強、中、弱、なし)を整理しておく。
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次年度使用額が生じた理由 |
オルガノイドの実験系確立の途中で時間がかかってしまい、1年間の全工程30%程度遅れてしまった。また、1から3月も新型コロナ感染症対策のために、共通実験室や研究者や学生の移動に制限があったため、どうしてもその遅れのリカバリーもがおくれてしまった。このため、実験機器や実験試薬等を購入・供試できなかった。 2年次の今年度は、実験で供試できなかった部分を取り返して、実験を実施する予定である。新型コロナ感染症の対策による実験の実施制限の合間をぬって実験をコンスタントに進める予定である。
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