研究課題/領域番号 |
19K05927
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
水重 貴文 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (70571008)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コラーゲンペプチド / うつ様行動 / ストレス |
研究実績の概要 |
我々はこれまで、コラーゲン分解物の経口投与によりうつ様行動が減少することをマウスを用いた行動学的手法により明らかにした。本研究では、コラーゲン分解物の抗うつ作用の活性成分および作用メカニズムを明らかにすることを目的とした。昨年度までに、生姜由来酵素を用いたコラーゲン分解物(GDCH)が他のコラーゲン分解物よりも抗うつ活性が強力であることを見出した。また、GDCHの経口投与時に血液循環しているジペプチドであるプロリルヒドロキシプロリン(PO)の経口投与による抗うつ作用が認められた。GDCHおよびPOの抗うつメカニズムを検討したところ、GDCHおよびPOの経口投与により、うつ様行動制御に関わる海馬神経前駆細胞の増殖が促進すること、複数種の神経栄養因子の発現が上昇すること、ドーパミンD1受容体シグナル経路が関与することが明らかになった。 今年度は引き続き、GDCHおよびPOの抗うつメカニズムの解析を行った。GDCHの経口投与によるドーパミン分泌に対する効果を調べたところ、GDCHの経口投与により、海馬、前頭前野、脳幹のドーパミン量の増加が認められた。ドーパミンの代謝産物である3-メトキシチラミンとホモバニリン酸の量も同様に増加した。以上の結果から、コラーゲン由来ペプチドがドーパミン遊離を促進し、D1受容体を介したシグナル伝達がその抗うつ作用の惹起に関わっていることが示唆された。次に、コラーゲン由来ペプチドの抗うつ作用に関わる因子についてさらに海馬のストレス関連受容体、神経免疫、細胞死、インスリン代謝のうつ様行動に関わるとされる因子の遺伝子発現を調べた。その結果、GDCH投与により、細胞死関連因子カスパーゼ3の発現の減少傾向と神経炎症関連因子インターロイキン1βの発現減少が認められた。 来年度は、うつモデルを用いた解析とドーパミン系と神経炎症についてより詳細にメカニズム解析をしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、コラーゲン分解物の抗うつ作用における活性成分の特定と脳内メカニズムの解明を目指している。2年目の進捗状況として、コラーゲン分解物の投与により、海馬、前頭前野、脳幹において、ドーパミンの量が増加することが明らかになった。1年目に明らかにしたドーパミンD1受容体のシグナル経路の関与と合わせて考えると、コラーゲンペプチドがドーパミン遊離を促進し、D1受容体を介して、抗うつ作用を示していることが示唆された。さらに、新たに、コラーゲンペプチド投与により、脳神経細胞の細胞死および神経免疫系が抑制されていることが示唆される結果を得ることができた。 1年目に明らかにしたコラーゲンペプチドの抗うつ作用に対するドーパミン神経系の関与の仮説を支持する結果が得られた。また、ドーパミン神経系との関連は今後の検討課題であるが、新たに、近年、うつ様行動との関連が報告されている神経細胞の細胞死や神経免疫系がコラーゲンペプチド投与により抑制されていることを見出した。3年目にさらなる検討を行っていく予定である。 以上より、コラーゲンの抗うつ作用のメカニズム解明に向けて、確実に進んでおり、新たな脳内の現象の変化を見出すことができたため、本研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討により、コラーゲン分解物の抗うつ作用がドーパミン神経系への影響によるものであることを支持する結果が得られ、メカニズム解明に向けて着実に進むことができた。今後も引き続き、当初の計画にあるコラーゲンペプチドの抗うつ作用のメカニズム解析を行う。ドーパミン神経系や神経免疫系をさらに深く解析し、コラーゲン分解物の抗うつ作用メカニズムの全容解明を目指す。これまでの研究計画の変更は必要ないと考えている。引き続き、考えられる仮説を検証していくが、ドーパミン系と神経免疫系がどのように連携し総合的にうつ様行動の変化を引き起こされているのかを明らかにすることは興味深い今後の検討課題である。うつモデル動物を作成し、様々なうつ誘発条件に対して、コラーゲンペプチドが効果を発揮するか検討する。社会的敗北ストレスや拘束ストレスなどで誘導されるうつ様行動の増加を抑制できるかどうか調べる予定である。以上より、最終年度では、ドーパミン系、神経炎症系を中心にコラーゲンペプチドの抗うつメカニズムの解明と、うつ誘導条件におけるコラーゲンペプチドの有効性を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大に関する措置により、1月上旬~3月中旬の間、実験を中止せざるを得ない状況になった。次年度、中止した実験を実施する。実験動物や消耗品を購入するために使用することを計画している。
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