研究課題/領域番号 |
19K05929
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
薮田 行哲 鳥取大学, 農学部, 准教授 (00379562)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ビタミンB12 / レドックス / 酸化的ストレス / 線虫 |
研究実績の概要 |
線虫(Caenorhabditis elegans)も我々哺乳類と同様にビタミンB12(B12)を生育に要求し、その欠乏はレドックス制御の破綻を引き起こすことを明らかにした。さらにそれによる記憶保持能が低下していることを見出した。B12欠乏により引き起こされたレドックスバランスの崩壊はNADPHオキシダーゼ活性の誘導と抗酸化酵素活性の低下により引き起こされた事が示唆されたが、詳細な分子メカニズムは不明である。ところで、B12欠乏線虫では1.ホモシステインの蓄積が認められたことからS-アデノシルメチオニンが欠乏し、一炭素代謝が滞っていること、2. TCAサイクルを阻害するメチルマロン酸が蓄積していた事からミトコンドリアの機能不全に陥っている事が示唆された。すなわち、前者はメチオニン合成酵素が、後者はメチルマロニル-CoAムターゼの機能不全に起因する。以上より、これらが個々にあるいは両方がレドックスバランスの崩壊と記憶保持能の低下に関与しているのではないかと考えた。そこでB12を補酵素型への変換や輸送に関わるタンパク質およびB12を補酵素とするメチオニン合成酵素とメチルマロニル-CoAムターゼの遺伝子破壊もしくは発現抑制線虫を用いてこのことについて解析した。本年度はこれらの線虫の調製とB12欠乏のバイオマーカーであるメチルマロン酸とホモシステインを測定した。ところでアルツハイマー病と関わりの深いアミロイドβの凝集にホモシステインの蓄積が関与している事が報告されているが詳細は不明である。そこでアミロイドβ発現線虫を用いてB12添加の有無による影響を調べた。また以前の研究でB12欠乏はビタミンC(C)レベルの低下を引き起こすことを明らかにしており、B12欠乏のレドックス変化にCもまた関与している事が考えられたため、線虫のC生合成経路の同定も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既知の情報を元にB12代謝に関わる全ての遺伝子破壊もしくは発現抑制株を調製した。B12欠乏のバイオマーカーであるメチルマロン酸とホモシステインのHPLCによる定量法は既に研究室で確立できていたが、より高感度に測定するためにLC-MS/MSによる測定法を確立した。この方法により調製した線虫のB12欠乏マーカーを測定した。その結果、これまでに報告されている結果と一致する物も見られたが、蓄積が全く見られないあるいは予期せぬ蓄積が認められた線虫も認められた。また活性酸素種の蓄積を2,7-Dichlorodihydrofluorescein diacetateにより染色し蛍光顕微鏡により観察したが、遺伝子破壊株あるいは発現抑制株で顕著な蓄積は認められ無かった。 またアミロイドβ発現線虫はその蓄積により麻痺する。非常に興味深いことにB12無添加の培地で培養した場合、添加した時と比較して麻痺が促進された。 一方で線虫のC生合成経路は哺乳動物の経路と同様であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きB12欠乏のバイオマーカーと活性酸素レベルの測定を行っていく。また研究費減額によりRNAseq解析ができなくなったため、レドックス制御を受ける事が報告されているsod-3などの発現を野生株と比較する。プロモーター::GFP融合遺伝子を持った線虫などと遺伝子破壊線虫の交配なども試みる。 アミロイドβの発現による線虫の麻痺にB12が大きく関与していたことから、B12添加の有無によるアミロイドβの発現や凝集への影響をリアルタイムPCRやウエスタンブロッティングなどにより調べる。 C生合成経路が明らかになり、それに関わる酵素も幾つか明らかになった。そこでB12欠乏下でのCの低下が生合成能の低下に起因するかを明らかにするため、B12欠乏下でのこれらの発現レベルを通常条件下と比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額であったため消耗品等を購入しなかったため次年度へ持ち越した。少額であるために翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画は当初計画に沿って執行する。
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