研究課題/領域番号 |
19K05941
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
石川 寿樹 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20598247)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スフィンゴ脂質 / 糖鎖 / 糖転移酵素 / 中性脂質 / 種子サイズ |
研究実績の概要 |
本研究では、植物固有のスフィンゴ糖脂質クラスであるグリコシルイノシトールホスホセラミド (GIPC) の糖鎖合成酵素の機能に着目した。今年度は、シロイヌナズナの主要なHex型GIPC糖鎖を形成するGMT1を欠損する変異体を用い、Hex型糖鎖の機能解析を行った。特にgmt1の表現型におけるサリチル酸の寄与度を明らかにするため、サリチル酸分解酵素を導入した系統を作出した。また、Hex型糖鎖に特異的な機能を明らかにするため、HexN糖転移酵素GINT1を構成的に発現する系統を作出した。これらの植物系統を生育させたところ、gmt1に特徴的な葉の枯死性はNahGおよびGINT1のいずれの導入においても完全に回復したことから、この表現型はサリチル酸依存性であり、Hex型とHexN型の糖鎖に共通な機能の欠損に起因することがわかった。一方、gmt1の生育不全はこれらの遺伝子導入によって部分的にしか回復せず、特に根の伸長異常はほとんど回復が認められなかった。このことから、Hex型GIPC糖鎖に特異的な機能が、根伸長を始めとする植物の成長に必須であることが示された。 また、種子特異的に発現するGINT1を欠損するgint1変異体の種子表現型を解析した。種子サイズが肥大するgint1に、主要な種子貯蔵タンパク質であるCRCの欠損および貯蔵脂質TAGの合成酵素DGAT1を導入し、さらなる種子TAG含量の増加を試みた。その結果、gint1単独変異体に比べ、gint1/crc/DGAT1ox系統では、種子サイズには変化がみられなかったものの、総脂肪酸含量の有意な増加が認められた。しかしながら、CRCの欠損に伴い他の種子貯蔵タンパク質が相補的に増加していることが明らかになった。今回増加が認められた他のタンパク質についても遺伝子を機能破壊することで、さらなるTAG含量の増加が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度から作出を進めてきた植物系統を用い、シロイヌナズナの栄養成長におけるHex型糖鎖の機能、および種子サイズ制御におけるHexN型糖鎖の機能解析を順調に進めることができた。さらに、gmt1変異体における根の伸長異常や、gint1変異体における種子タンパク質の合成亢進などの新たに得られた結果を元に、研究の進展に必要な植物系統の作出にも取り掛かっており、計画通りあるいはそれ以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きGIPC糖鎖の機能解析を進める。gmt1変異体については、根の伸長異常の原因を明らかにするため、組織・細胞形態を顕微鏡観察により解析すると共に、オーキシンやサイトカイニンなど根細胞の分裂や伸長に関与する植物ホルモンや細胞分裂のマーカー遺伝子のプロモーターレポーターコンストラクトの導入を進めており、それらの解析をさらに進める。また、gmt1変異体におけるサリチル酸応答性の異常活性化の原因を探るため、サリチル酸に関連する病原応答遺伝子等の欠損変異体との交配を進めており、それらを確立次第、表現型を解析する。 gint1変異体については、さらなる油脂含量の増大を目指して種子タンパク質の多重欠損体との交配を進めると同時に、種子肥大の分子機構を明らかにすることを目的として、既知の種子サイズ異常変異体との交配による遺伝学的解析を行う。これらについても既に確立を進めており、今年度中に確立し種子表現型を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型感染症流行に伴う非常事態宣言の発令等の影響により、研究活動の一部延期が発生した。必要な植物系統の作出は順調に進んでいるため、次年度に繰り越して予定していた解析を行う。
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