研究課題
本研究では、植物固有のスフィンゴ糖脂質クラスであるグリコシルイノシトールホスホセラミド (GIPC) の糖鎖合成酵素の機能に着目した。シロイヌナズナの全身に発現し、ヘキソース型GIPCの合成を担うGMT1を欠損するgmt1変異体について、昨年度までに地上部におけるサリチル酸誘導性細胞死の恒常的発現、地下部におけるサリチル酸非依存的な成長抑制の表現型を見出してきた。今年度は、gmt1変異体の表現型をさらに詳細に解析した。まず、伸長異常を示すgmt1の根を顕微鏡下で観察したところ、細胞の伸長が抑制されているだけでなく、形状が歪に変形した細胞や、細胞同士が密着せず、細胞の配置異常を示す領域が観察された。また、gmt1の根では根毛の形成にも著しい異常がみられ、GIPC糖鎖の異常が根毛発生過程に何らかの影響を及ぼしていることが推測された。さらに、幼植物体の組織を切り分けカルス誘導培地で培養したところ、gmt1変異体は各組織片からのカルス形成および誘導されたカルス細胞の増殖性には顕著な抑制傾向はみられなかったものの、培地ホルモン組成の変化によるカルスからのシュート再生はほとんど起こらなかったことから、GIPC糖鎖の欠損は組織や細胞種によって全く異なる影響をもたらすことが明らかとなった。また、gmt1の根からのカルス形成は、野生型よりもむしろ促進している様子が観察された。カルス形成には根の伸長や形態形成と共通した遺伝子が関与することが知られていることから、上記の根の形態形成の表現型との関連が示唆される。
2: おおむね順調に進展している
前年度から作出を進めてきた植物系統を用い、シロイヌナズナの栄養成長におけるHex型糖鎖の機能解析を順調に進めることができた。特に根の細胞形態の異常やカルス形成の促進など、gmt1変異体の新たな表現型を複数見出すことができた。現在はこれらをさらに詳細に解析するために必要な植物系統の作出を進めている。また、gmt1変異体におけるサリチル酸応答性の異常活性化の原因を探るため、サリチル酸に関連する病原応答遺伝子等の欠損変異体との交配を進め、こちらの確立も順調に進んでいる。これらの新規植物材料を用いて、今後さらに解析を進める。
引き続きGIPC糖鎖の機能解析を進める。gmt1変異体については、根の伸長異常の原因を明らかにするため、組織・細胞形態をさらに詳細に顕微鏡観察する。またオーキシンやサイトカイニンなど細胞の分裂や伸長に関与する植物ホルモンおよび細胞分裂マーカー遺伝子のレポーター植物の作出を進めており、それらの解析をさらに進める。これらの形質転換体およびサリチル酸関連多重変異体を用いて、gmt1の各種表現型をさらに追究する
新型感染症の発生により研究室を一時閉鎖するなどの影響により、研究計画の一部に遅れが生じた。特に、新規確立した突然変異体の遺伝子発現解析、レポーター遺伝子導入植物の染色実験などを翌年度に行う予定であるため、これらの遂行にかかる費用を繰越額で賄う。
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