植物が正常に生育するためには、核と葉緑体間における双方向の情報伝達が重要な役割を果たしているが、特に葉緑体内の状態を核に伝えるプラスチドシグナルについては不明な点が多く残されている。本研究では、葉緑体における中心制御因子と考えられているGUN1の分子機能や、下流の核遺伝子発現調節メカニズムを明らかにすることで、プラスチドシグナル伝達の普遍性と多様性をより明確に示すことを目的としている。 今年度は、下流遺伝子発現のエピジェネティックな制御の実態を明らかにするため、プラスチドシグナルによるヒストン修飾に関する解析を継続して検討した。本研究でこれまでに確立した、ノルフルラゾン処理によってプラスチドシグナルを安定に発生させる実験系を用いて個別のヒストン修飾を調べたところ、昨年度に観察されていたアセチル化修飾に加えてH3K4me3やH3K27me3などのメチル化修飾もプラスチドシグナルにより変化していることが示され、転写因子による制御に加えて、ヒストン修飾によるエピジェネティック制御も重要な役割を果たす可能性が示された。 研究期間全体を通じて、上述のようなプラスチドシグナルによるエピジェネティック制御の一端を示せたことに加えて、核遺伝子発現制御の多様性として、従来より示されていた葉緑体の異常に伴ったストレス応答の他に、光合成環境の変化に伴ったPSI遺伝子とPSII遺伝子の発現バランスを調節するプラスチドシグナルの存在を明らかにすることができた。また、プラスチドシグナルと概日時計の関係についても検討したところ、概日時計の変異株では光ストレス条件下での白化が早まり、成長が大きく遅延することが示されたことから、葉緑体の光合成機能と核の概日時計は両者間のシグナル伝達経路を介して密接に関連していることが示唆された。
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