申請者らはこれまでの研究で、大腸菌は一つの脱アセチル化酵素遺伝子(cobB)からN末端の長さが異なるアイソフォームCobB-LとCobB-Sが発現することを示し、CobB-Lがリボソームと相互作用することを発見した。この結果から、CobB-Lの脱アセチル化活性と翻訳には何らかの関わりがあると推測されるが、その詳細は分かっていない。そこで本研究ではリボソームに局在するCobB-Lの生理機能を解明することを目的とした。本研究は真正細菌のリジンアセチル化修飾の生理的意義やアセチル化ネットワークの理解につながることが期待される。本年度は以下の研究を行った。 (1)CobB-Lが標的とするアセチル化修飾の解析 大腸菌の野生株、CobB-S発現株(CobB-L欠損株)およびCobB全欠損株に対してアセチローム解析を行い、CobB-Lに感受性のあるアセチル化を網羅的に同定した。安定同位体リジンの取込みを利用したSILAC法を行い、アセチル化の変化を定量的に追跡した。CobB-Lのみの欠損によりアセチル化レベルが上昇したタンパク質を27種類同定した。 (2)新生ペプチドに対する脱アセチル化の解析 抗生物質耐性タンパク質の活性残基を遺伝暗号拡張法によりアセチルリジンに置換し、CobB-LとCobB-Sが導入したアセチルリジンに対して脱アセチル化活性を示すかどうかを解析した。リボソームに局在するCobB-Lが新生ペプチドに対して活性をもつ場合、タンパク質がフォールディングする前に脱アセチル化すると考えられたが、予想に反してCobB-LとCobB-Sの両者で脱アセチルか活性が見られた。
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