研究課題/領域番号 |
19K05946
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
森山 裕充 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20392673)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | マイコウイルス / パン酵母 / 生育促進 / 生育阻害 / 2μDNAプラスミド / 植物病原菌 / 強毒化ウイルス / 弱毒化ウイルス |
研究実績の概要 |
本研究ではパン酵母の高度に発展した遺伝子工学的手法による、精度の高い培養計測と制御系を利用することで、植物病原菌に感染するマイコウイルスRNAゲノム遺伝子の機能解析を行う。その評価系としては酵母細胞異種発現系によって顕在化される細胞の生育、各種ストレス感受性、細胞寿命に及ぼす影響を指標として行う。初年度は、国際ウイルス分類委員会(ICTV)でβ-Chrysoviridae科として定義されたナシ黒斑病菌Alternaria alternata Japanese pear pathotype N18株に感染するマイコウイルスAaCV1, Alternaria alternata chrysovirus 1の全長ORF2タンパク質(771 aa)と、ORF2タンパク質のうちβ-Chrysoviridae科のウイルス間で保存性が高い領域であるSUaタンパク質(251 aa)を発現させた際に顕れる生育促進現象についての調査を行い、SUaタンパク質による生育促進現象についてはRNA-Seqを行いmRNA発現レベルでの調査も行った 。初年度における酵母異種発現系のツールとしては細胞内で高コピー数(10~50コピー)を維持し得る、2μDNAプラスミド系プラスミドを用いた。各種ストレス耐性の検討は、NaCl耐性試験(9%と11%)、エタノール耐性試験(5%と7%)、5-FOA(5-フロロウラシル)耐性試験(終濃度0.1%)の条件で行った。生菌細胞数測定はコロニーカウント法で実施した。SUaタンパク質を2μ系ベクターで発現酵母は、W303-1A株とBY4742株の何れにおいてもコントロールに比べて4~10倍高い数値を示した。このような結果は、マイコウイルス由来の遺伝子産物が宿主菌に及ぼしている真の影響はいったい何であるかという「問い」を我々に齎した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AaCV1のSUa配列(以下SUa配列)がパン酵母に与える生育促進現象の解析を、W303-1A菌株とBY4742菌株を用いて行った。まず、BY4742菌株に空ベクターを形質転換したコントロール菌株と、SUa配列を形質転換したSUa導入酵母で50 ml生育試験を行った。3時間ごとの濁度測定、6時間ごとの生菌細胞数測定、顕微鏡を利用した細胞観察の結果、W303-1A菌株と同様に生菌細胞数の増加が確認された。W303-1A菌株では、コントロール菌株に対してSUa導入酵母の生菌細胞数が培養16時間目で最大約3倍増加したのに対し、BY4742菌株では培養12時間目に最大約7倍増加した。これはW303-1A菌株よりもBY4742菌株の方が、SUaが酵母細胞の成長速度に与える影響が大きいことを示唆している。実際、生育試験で得たデータを基に、1つの細胞から出芽し2つの細胞に至るまでの分裂時間=ダブリングタイムをそれぞれの菌株で算出すると、W303-1A菌株ではコントロール菌株で約2.65時間、SUa導入酵母で約2.48時間であったのに対し、BY4742菌株ではコントロール菌株で約3.72時間、SUa導入酵母で約2.85時間であった。W303-1A菌株ではSUa配列を導入することでダブリングタイムが約1.07倍、BY4742菌株では約1.31倍に上昇しており、その効果はBY4742菌株での方が強いように考えられる。次にW303-1A菌株とBY4742菌株を同じ条件下で高温、塩、エタノール耐性ドロップ試験を行った結果、それぞれの菌株においてSUa配列を導入することで各種ストレスに耐性を示す結果が得られた。これらの結果から、SUa配列がパン酵母に与える影響は、弱っている菌株を回復させる限定的な生育促進現象ではなく、正常な菌株に対しても効果を表す生育促進現象だと示された。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、RNA-seqによる各遺伝子の転写量の増減調査を行い、生育促進現象に関連する宿主側遺伝子の同定を試みる。初回検討として、バッフルフラスコ(200ml容)を用い、W303-1A菌株とBY4742菌株のコントロール菌株とSUa導入酵母をそれぞれ12時間培養し、対数増殖期にある状態のサンプルを用いてみた。現在、遺伝子オントロジー(GO)を解析中であるが(解析ソフトはclusterProfiler)、BY4742菌株の結果においては、SUa導入酵母で発現が上がったGOには、酸化還元関連、細胞壁関連が多く見られ、全変動遺伝子中それぞれ約12 %、約14 %であった。また、発現が下がったGOには液胞、細胞周期関連が多く見られ、それぞれ約18 %、約10 %であった。さらに、DESeqを用いて検定してlog2FoldChangeの上位、下位20位までを2種の菌株でそれぞれピックアップしたところ、共通して大きく変動した遺伝子はPHO3とYGR067Cの2つだった。PHO3はコントロール菌株と比較してSUa導入菌株で発現が大きく減少しており、YGR067Cは上昇していた。PHO3は恒常的に発現される酸性ホスファターゼであり、チアミンにより発現が抑制される遺伝子である。YGR067Cは転写因子ADR1(グルコース抑制に必要なADH2遺伝子の発現調節)と似たジンク(Zn)フィンガーモチーフを有しており、機能的にも類似することが想定される。今後、更に細胞壁合成、DAPI染色による核やミトコンドリアの動態変化への影響についても調査していく。また、2μDNAプラスミドベクターのSUa配列もよる安定化なども調査していき、生育促進現象やストレス耐性現象との関連を検討して行く。
|
次年度使用額が生じた理由 |
809円の次年度使用額については、2020年度の助成金と合わせて研究遂行の為に2020年度内に使用する。
|