本研究ではパン酵母の異種発現系を利用して植物病原糸状菌に感染するマイコウイルスのRNAゲノムがコードする蛋白質の宿主菌に付与する影響について調査した。評価系としてはウイルス遺伝子発現酵母細胞の増殖速度、生菌細胞数測定、RNA-Seqによる発現解析を実施した。1年目と2年目ではナシ黒斑病菌Alternaria alternata Japanese pear pathotype N18株に感染するマイコウイルスAaCV1:Alternaria alternata chrysovirus 1(AaCV1)の全長ORF2タンパク質(771 aa)と、ORF2タンパク質のうちβ-クリソウイルス属間で保存性が高い領域であるSUaタンパク質(251 aa)の酵母細胞の生育について、詳細な調査を行い、3年目ではAaCV1と同様にβ-クリソウイルス属に属するAspergillus fumigatus chrysovirus 41362(AfuCV41362)の全長ORF3(AaCV1 ORF2と33%の同一性、MoCV1-A ORF4と31%の同一性)についても酵母異種発現系を追加した。これら3種の同属ウイルスで保存された外被タンパク質の共通した性質として、各宿主菌細胞内で特異的なプロセッシングを受ける性質や、GFP融合蛋白質発現実験より細胞内で凝集能を持つことや、生育速抑制や細胞の肥大化が示された。RNA-Seqの結果、発現量が低下する遺伝子としては、40Sリボソームサブユニットや細胞壁合成に関与するものがあった。また酵母細胞とAspergillus fumigatusで共通して発現量が低下する遺伝子も85個あり、その中にはエルゴステロール生合成、テロメラーゼ酵素など生命維持に必要な創薬ターゲット遺伝子も存在することが明らかとなり、今後、新たな細胞制御技術への発展を目指して研究を遂行する。
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