研究課題/領域番号 |
19K05948
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高谷 智英 信州大学, 学術研究院農学系, 助教 (00450883)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 筋形成型オリゴDNA / アプタマー / ロコモティブ症候群 / 筋芽細胞 / 骨格筋分化 |
研究実績の概要 |
本年度は、筋形成型オリゴDNA(myoDN)による骨格筋筋分化誘導の分子機構を完全に解明し、その成果を国際学術誌に論文発表した(Shinji et al., Frontiers in Cell and Developmental Biology, 2021; 8: 616706)。myoDNは特徴的な立体構造を形成することで、筋芽細胞で発現するヌクレオリンと直接結合するアプタマーとして機能する。ヌクレオリンはp53 mRNAと結合してp53タンパク質の翻訳を阻害しているが、myoDNがヌクレオリンと競合的に結合することでp53 mRNAの翻訳阻害が解除され、筋芽細胞内でp53タンパク質が増加して下流のシグナルが活性化され、骨格筋分化が促進される。 また、myoDNの活性によって、糖尿病患者や、がん細胞分泌物によって阻害される筋芽細胞の分化が回復することを確認した。これらの結果は、myoDNが糖尿病性筋萎縮症や、がん悪液質(カヘキシー)の予防や治療に有用な核酸医薬のシーズであることを示す。さらに、糖尿病やがんは筋芽細胞の炎症を惹起するが、myoDNの投与によって筋芽細胞における炎症性サイトカインの発現が抑制されることが明らかになった。myoDNの抗炎症作用はNF-κBシグナルへの介入によるものであることを示唆するデータが集まりつつある。myoDNの抗炎症作用の機序を解明することで、筋ジストロフィーのような炎症を伴う筋再生を呈する疾患にも応用範囲が広がると考えられる。 また、myoDNに次ぐ新たな機能性オリゴDNAとして、骨分化を促進する骨形成型オリゴDNA(osteoDN)の同定に成功した。osteoDNは骨芽細胞の分化を促進するとともに、破骨細胞の分化を抑制することから、筋萎縮と並ぶロコモティブ症候群の重大疾患である骨粗鬆症の治療に有用であると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和2年度末までを予定していた、「myoDNが適用可能な細胞現象の探索と検証」について大きな進捗があった。まず、筋細胞(糖尿病患者筋芽細胞、がんカヘキシーモデル、C2C12筋芽細胞株)において、myoDNが骨格筋分化を誘導するだけでなく炎症反応を抑制することを見出した。予備的な実験から、myoDNの抗炎症作用はNF-κBシグナルを介したものであることが明らかになりつつある。糖尿病筋芽細胞におけるmyoDNの作用については現在論文を投稿中であり、がんカヘキシーモデルについても令和3年度中に論文を投稿する予定である。 また、筋細胞と発生学的に関連の深い平滑筋細胞(ヒト初代培養平滑筋細胞、ラット平滑筋細胞株A-10)、脂肪細胞(マウス脂肪前駆細胞モデル3T3-L1細胞株)、および骨芽細胞(マウス骨芽細胞株MC3T3-E1)の増殖・分化にもmyoDNが作用することを確認した。これらの細胞種においてもmyoDNが抗炎症作用を発揮するか、検証を進めている。将来的には、肥満や動脈硬化にもmyoDNが治療効果を示すことが期待され、脂肪細胞におけるmyoDNの作用について特許を出願した。 さらに、全くの新規に同定したosteoDNが骨芽細胞の分化を促進し、破骨細胞(マウス破骨細胞モデルRAW264.7細胞株)の分化を顕著に抑制することを見出した。osteoDNの作用機序はmyoDNと異なり、このような別種のオリゴDNAの同定は本研究課題の顕著な成果であり、今後の研究展開に備えてosteoDNに関する特許を出願した。 これらの成果は、初年度の課題であった「myoDNの作用機序の解明」から大きく飛躍し、本研究の学術的独自性「オリゴDNAによる細胞の分化制御」という新領域の開拓を大きく進展させるものである。
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今後の研究の推進方策 |
myoDNの筋分化誘導作用の臨床応用を目指し、加齢・糖尿病・がん悪液質(カヘキシー)などの筋萎縮モデルにおけるmyoDNの生体内作用の検討を進める。上述のように培養細胞を用いたin vitroの研究は順調に進展しているが、コロナ禍の影響もあって動物試験の推進には若干の課題が残る状況である。新しく明らかになったmyoDNの炎症作用の解明を並行して進めることで、研究課題全体としての進捗が確保されるよう努める。 これまで同様、学会発表および特許出願も継続する。特に最終年度となる令和3年度は、本課題の進行で得られた成果の論文投稿にも注力する。現時点で投稿中の論文が2本あるが、年度内に加えて2本の投稿を目指す。 新たに同定し、骨系細胞での作用が確認されたosteoDNについては、分子メカニズムの解明を中心に解析を進める。既にosteoDNの立体構造のシミュレーションは完成しており、今後、明らかになったコンフォメーションから活性中心となる塩基を予測する。骨分化作用に重要と考えられる塩基群を置換した変異osteoDNを用い、活性中心を実験的に確定する。また、プロテオミクス解析によるosteoDN標的タンパク質の同定、およびトランスクリプトーム解析によるosteoDN作用機序の解明を目指す。 これらの研究を推進することで、微生物ゲノム配列由来のオリゴDNAによる細胞分化制御を確立し、新たな核酸医薬のシーズとして提案することで、関連分野を巻き込む新領域の開拓を目指す。
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