研究実績の概要 |
本年度は、筋形成型オリゴDNA(myoDN)による骨格筋分化誘導の実用化を目指して、ヒト糖尿病患者の筋芽細胞、ならびにニワトリ筋芽細胞におけるmyoDNの作用を解析し、それらの成果を複数の学会で報告するとともに、国際学術誌に2編の原著論文として発表した(Nakamura et al., Frotiers in Physiology, 2021; 12: 679152、Nihashi et al., Animal Science Journal, 2021; 92: e13597)。 糖尿病患者の筋芽細胞では、健常者と比較して筋分化が悪化し、炎症応答が生じていたが、myoDNの投与によって筋分化能が改善するとともに、炎症反応が抑制された。同様の実験を、がん悪液質モデルでも行った。がん細胞の培養上清で筋芽細胞を分化誘導すると、炎症応答が生じて筋分化が悪化するが、myoDNの投与によって分化能が改善し、炎症反応が抑制された。これらの結果から、myoDNは、糖尿病やがんが併発する筋萎縮の予防や治療に有用であることが示唆された。myoDNの抗炎症作用の機序を検討した結果、myoDNは、ヌクレオリン阻害を介してβカテニンの細胞内蓄積を抑制し、NF-κBの核内移行を阻害することによって炎症性サイトカインの発現を抑制することが明らかになった。 また、myoDNは、マウスやヒトと同様に、ニワトリ筋芽細胞の筋分化も誘導することを認めた。myoDNの標的であるヌクレオリンは、哺乳類のみならず鳥類においても高度にアミノ酸配列が保存されているため、myoDNはニワトリ筋芽細胞においても活性を示したと考えられる。筋芽細胞の分化は、動物の骨格筋形成に不可欠であり、これを促進するmyoDNは家畜・家禽の筋形成の増進によって食肉生産に貢献する新たな知見をもたらすことが期待される。
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