黄麹菌においてゲノム編集ツールを用いて非相同末端結合 (Nonhomologous end-joining : NHEJ) の修復エラーを利用したゲノム編集を行うと、得られた株の半分程度で 1 kb 以上の大規模な欠失が引き起こされることを見出し、このメカニズムの解明に取り組んでいる。この大規模欠失に NHEJ 経路に関与する因子が関与しているのかを調べるために、NHEJ 経路の最終反応に寄与する ligase (ligD) に焦点を充てて研究を行った。まず、前年度調査した polD 遺伝子破壊株の親株 (niaD300 株)と合わせる形で ligD 遺伝子破壊株を造成した。この新たに造成した ligD 遺伝子破壊株と、以前に造成した ligD 遺伝子過剰発現株に対して、TALENs 及び CRISPR/Cas9 を用いて NHEJ 修復エラーを介したゲノム編集を行った。その結果、ligD 遺伝子破壊株を宿主としてゲノム編集を行ったところ、ほとんどゲノム編集体が得られなかった。この結果は、NHEJ 経路の DNA 2 本鎖切断時に末端保護の役割を有する ku70 遺伝子破壊株に対してゲノム編集を行った結果と類似していた。一方で、ligD 過剰発現株を宿主としてゲノム編集を行ったところ、多くのゲノム編集体が得られた。更に ligD 遺伝子をより高発現させるために誘導物質を添加した状態でゲノム編集を行うとより多くのゲノム編集株が得られ、大規模欠失の頻度も上昇した。今後は ligD や ku70 破壊株で NHEJ 修復エラーを介したゲノム編集の結果を詳細に検討し、大規模欠失が引き起こされる要因を考察できるようにしたい。また、黄麹菌大規模欠失抑制株のゲノム解析を引き続き行ったところ、アミノ酸にまで影響を及ぼす変異が17個の遺伝子で観察された。今後はこの変異が大規模欠失と関与するのか調べていく予定である。
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