研究課題/領域番号 |
19K05960
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上田 実 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (30632541)
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研究分担者 |
工藤 紀雄 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (80632421)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境ストレス耐性強化 / シロイヌナズナ / ヒストン脱アセチル化酵素 / HDA19 / ケミカルスクリーニング / 稔性回復 / HDAC阻害剤 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、シロイヌナズナを材料に、その活性阻害により環境ストレス耐性を付与可能なヒストン脱アセチル化酵素のアイソフォームであるHDA19を解析対象として研究を進めている。hda19は塩、高温、乾燥等の環境ストレスに対して耐性を示すものの、HDAC阻害による環境ストレス耐性強化を作物等へ実用化する際に問題となることが予測される不稔性等の表現型を示すことが知られている。本研究課題の主目的は、その不稔性を回避もしくは抑制し、かつ環境ストレス耐性を維持するための遺伝学的・化学的システムの構築としている。 変異体等を利用した遺伝学的な手法による研究では、ストレス耐性付与に関わる遺伝子の探索のため、hda19で発現が誘導されている転写因子をコードしている遺伝子とhda19との多重変異体を使った解析から、稔性が回復する系統の単離に成功した。 一方、化学的な研究においては、仮にHDA19に作用する化合物(HDAC阻害剤)を同定することができれば、化合物の一過的な処理により環境ストレス耐性の向上が期待でき、hda19変異体のように恒常的にHDA19を機能抑制することで出現する不稔等の表現型も容易に回避可能と考えられる。そこで、HDA19(植物)特異的HDAC阻害剤の同定を最終目的としているが、その化合物同定のために重要なステップとなる活性を持つ組換えHDA19タンパク質の調製に成功した。調製したタンパク質を用いて、既存薬の植物HDACに対する阻害活性を評価したところ、in vivoの結果を反映していた。本アッセイ系を利用したin vitroの結果を参照して、化合物探索や阻害剤のクラス選択性の評価が可能と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の遺伝学的な解析での実験計画では、hda19変異体から単離した稔性復帰個体を用いた解析により、hda19が制御する生殖器官形成に関わる遺伝子発現制御ネットワークを同定していく計画であったが、別の目的で進めていた解析から、その制御ネットワークに関わる転写因子の同定に成功した。そして、それらの転写因子とhda19変異体との各2重変異体は塩ストレス耐性を維持していることから、稔性が一部回復したこれらの変異体を利用することで、大量のサンプルが必要となるアセチローム等のプロテオーム解析を実行できる状況になった。また、同定した転写因子についての機能解析は、世界でこれまで報告例がないことから、今回同定した稔性回復に関わる転写因子の機能解析により、未知の遺伝子制御ネットワークの解明が期待できる。 化学的な研究では酵素活性を有するHDA19の組換えタンパク質の発現に成功している。これまでHDA19を含むクラスIに分類されるRPD3-like HDAC活性の定量化を報告した事例はなく、研究計画立案時は、相当な困難が予測されていた。しかし、連携研究者である工藤博士の発現系を利用した組換えタンパク質調製により、HDAC酵素活性を有するHDA19組換えタンパク質の調製に成功した。また、クラスIIに分類されるRPD3-like HDACについても活性を保持する組換えタンパク質の調製に成功しており、各化合物の植物HDAC酵素に対するクラス選択的な阻害活性能についても評価可能になった。 これらの成果は、当初の計画を大きく上回るものであり、今後、環境ストレス応答の研究に留まらず、発生等の他領域の基礎研究の推進・発展にも大きく寄与するものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
環境ストレス耐性を維持し、hda19の稔性を回復させるhda19多重変異体の作出によって、プロテオーム解析等の多サンプルを必要とする実験をスムーズに行うことが可能となった。今後は、従来からある免疫沈降法に加えて、国際共同研究により化学プローブを利用した解析法も導入し、HDA19の相互作用因子やアセチル化修飾サイトの探索を進める計画である。現在、そのためのサンプルを調製中であり、本研究課題の期間内での解析終了を目指す。また、稔性回復に関わる転写因子の機能解析を行うため、生殖器官形成期における細胞生物学的な解析や、稔性回復に関わる代謝経路の同定を目指したトランスクリプトーム解析等を実行する計画である。アセチル化修飾サイトの同定に成功した場合は、アセチル化サイトを抗原とした抗体の作製も進める計画である。 現在、商業的に入手可能なHDAC阻害剤の多くは抗がん剤としての効果を期待して合成されているものが大部分を占めていることから、主にヒト等の動物HDACへの選択性を考慮して既存のHDAC阻害剤は開発されている。そこで本研究課題で確立したアッセイ系を利用して、既存薬の植物HDACに対する選択性を評価し、より植物HDACに対して選択的に作用するHDAC阻害剤を同定する。また、組換えHDA19タンパク質は活性が若干低い傾向があり、ハイスループットスクリーニングをする上では、発現条件等の改良が望まれる状況にある。今年度は、活性ある組換えタンパク質の回収率向上を目指した条件検討を行った後、HDA19の活性を制御可能な化合物の同定を目指したケミカルスクリーニングを行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外に発注した化合物の納品が遅れたため、発注を次年度にすることとした。繰越分は次年度に使用する計画である。
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