研究課題/領域番号 |
19K05961
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研究機関 | 岡山県農林水産総合センター生物科学研究所 |
研究代表者 |
鳴坂 真理 岡山県農林水産総合センター生物科学研究所, その他部局等, 特別流動研究員 (80376847)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 抵抗性蛋白質 / エフェクター / アブラナ科炭疽病菌 / シロイヌナズナ / 植物免疫 |
研究実績の概要 |
植物病原糸状菌の炭疽病菌は、1000種以上のエフェクターを宿主植物の細胞内に分泌して、宿主の抵抗反応を妨害し、その感染を成立させている。これに対して、植物は抵抗性(R)蛋白質を介して病原菌が分泌するAVRエフェクターを認識し抵抗反応を発動する。これまでの独自の研究において、シロイヌナズナの2つのR蛋白質(RPS4およびRRS1)が協調的に働き、複数の病原体に対する抵抗反応に関与するデュアルR蛋白質システムを世界に先駆けて発見した。2つのR蛋白質のうち、RRS1には遺伝子発現制御に関わるWRKY、ロイシンジッパーといった特徴的なモチーフが存在する。また、C末端領域では、シロイヌナズナ生態型間において、終始コドンの位置が異なり、配列長が短いものは炭疽病菌に対して感受性を示すなど、高い多様性が認められる。これより、RRS1が多様なエフェクターを認識するための強い選択圧を受けていることが推察され、デュアルR蛋白質システムを制御する因子として、病原体を認識する可能性が示唆されている。本課題では、炭疽病菌が分泌するAVRエフェクターを同定し、本AVRエフェクターを認識するRRS1の認識ドメインを明らかにすることで、デュアルR蛋白質システムによる多様な病原体の認識機構の全貌を解明する。 H31(R元)年度は、アブラナ科炭疽病菌のゲノム情報より推定した約300種のエフェクターについて、AVRエフェクター候補を探索した。また、デュアルR蛋白質システムを構成するRRS1のC末端領域の機能を明らかにするため、本領域にアミノ酸置換を導入し、その機能を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アブラナ科炭疽病菌のゲノム情報より推定した約300種のエフェクターについてAVRエフェクター候補を探索した。その結果、モデル実験植物Nicotiana benthamianaを用いた一過的な遺伝子発現系におけるスクリーニングにおいて、低発現系ではAVRエフェクター特有の抵抗反応が認められる候補遺伝子が得られたが、高発現系では顕著な特異性が認められなかった。そこで、炭疽病菌にランダムな変異を導入し、炭疽病菌に抵抗性を示す生態型Ws-2に感染する変異株の探索を行った。目的とするAVRエフェクター遺伝子が破壊されたことにより、デュアルR蛋白質システムが炭疽病菌の侵入を認識できなくなり、感染が成立することが想定される。4315個の変異株をスクリーニングした結果、弱い感染を示す変異株が得られたものの、感染が成立した変異株の取得には至らなかった。以上により、炭疽病菌のゲノム上に存在するAVRエフェクターは単独ではなく、複数種存在する可能性が示唆された。 また、デュアルR蛋白質システムを構成するRRS1蛋白質は病原菌の認識に関わっていると推察している。そこで、RRS1のC末端領域の機能を明らかにするため、本領域にアミノ酸置換を導入し、その機能を解析した。その結果、アミノ酸置換を導入することにより、いくつかの領域においてデュアルR蛋白質システムが起動する抵抗反応の制御に影響を生じることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予想通り、AVRエフェクターの同定は非常に困難である。最近、各種の炭疽病菌のゲノムが解読されたことから、アブラナ科炭疽病菌との比較ゲノム解析によりアブラナ科炭疽病菌のゲノム上に存在するエフェクターを精緻に推定し、これらのアノテーション作業を行いAVRエフェクター候補を探索する。また、現在得られている候補遺伝子について、デュアルR蛋白質との相互作用解析を行い、AVRエフェクターかどうかを明らかにする。 最近、Ralstonia solanacearumに抵抗性を示すシロイヌナズナ生態型由来のRRS1のC末端領域が病原細菌の認識に関わっていることが示唆された(Guo et al. 2020)。本課題においても、RRS1のC末端領域が炭疽病菌の認識に関わっていることが示唆されており、蛋白質間相互作用などにより、RRS1のC末端領域が多様な病原体の認識機構に関わっていることを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ解析装置の購入を予定していたが、コロナ感染症の影響により年度内の納品が不明であり、購入を次年度に変更したため。
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