研究課題/領域番号 |
19K05965
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西村 明日香 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特別研究員 (70767342)
|
研究分担者 |
本多 親子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (40343975)
堤 伸浩 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (00202185)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ブドウ / 無核化 / 抗生物質 / プロテオーム |
研究実績の概要 |
近年、消費者の種なし志向の高まりによりブドウの無核化(種なし化)が重要な栽培技術となっている。特に需要が拡大している大粒品種においては一般的なジベレリン処理での完全無核化が困難なため、ジベレリン処理と併用して抗生物質処理を行う無核化法が広く利用されている。しかしながら、このような農業現場での抗生物質の利用は抗生物質が効かない薬剤耐性菌の出現とそれによる感染症の拡大につながる要因の一つとして世界的に問題視され始めている。 そこで本研究では、抗生物質を用いない新たな種なしブドウ生産法の開発を目指し、未だ詳細機構が未解明のままである抗生物質による植物の無核化現象の分子機構の解明に取り組んでいる。 本年度はまず無核化に用いる抗生物質のプラスチドでのタンパク質合成阻害作用に注目し、抗生物質処理により発現影響を受けるタンパク質の同定を目的としたプロテオーム解析を行った。その結果、処理サンプルで特異的に発現量が減少しているタンパク質を複数見出すことに成功した。それらタンパク質をコードする遺伝子の中には、その他植物において稔性に関わることが報告されている遺伝子も含まれており、ブドウの無核化への関与に期待が持たれた。次年度は昨年度の実験の再現性の確認、および異なる手法でのプロテオーム解析を行うことにより候補タンパク質の絞り込みを進める。さらに有力な候補タンパク質については発現時期や部位の特定等の特性解析を進めていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度計画していた実験は予定通り遂行し、抗生物質処理により発現変動するタンパク質情報を得ることができた。これら情報は抗生物質処理により引き起こされる植物体内の分子応答反応の結果を具体的に示唆するものであり、次年度以降の研究発展のための重要な足掛かりを得る結果となった。以下、進捗概要を報告する。 実験は東京大学生態調和農学機構圃場で栽培されているシャインマスカット樹2本の開花始め期の花房を用いて行った。無核化にはアグレプト(20%ストレプトマイシン含有液剤、Meiji Seika ファルマ)1000倍希釈液を処理し0、6、24時間後の果粒中のタンパク質変動をnanoLC-MS/MSを用いて網羅的に解析した。Mascot(Matrix Science, UK)検索によりMSデータから予想されたタンパク質の検出量をサンプル間で比較した結果、未処理(0時間)サンプルより検出量が増加したタンパク質は6時間サンプルで8個、24時間サンプルで4個と少数であった。一方、処理により検出量が減少したタンパク質は6時間サンプルで33個、24時間サンプルでは24個含まれていた。これらのうち、特に顕著に検出量が減少したタンパク質には稔性に関与する報告のあるタンパク質も含まれていた。また、計画当初はプラスチドで合成されるタンパク質を解析対象とする予定であったが、予想外にもサンプル中に検出されたプラスチドコードタンパク質は数個のみであった。これらタンパク質発現量は抗生物質処理により大きく変動しなかったことから、無核化が生じる機構は特定のプラスチドコードタンパク質の合成阻害が直接的な原因ではない可能性が推測される。抗生物質に対する植物の新たな反応機構を示唆する興味深い結果である。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年同様、シャインマスカット樹へのアグレプト処理を行い処理前後の果粒中のタンパク質を比較分析する。昨年度の解析の結果、処理後6時間と24時間後のサンプル中の含有タンパク質やその量は類似していたことから、本年度はアグレプト処理による初動反応を解析する目的で処理後0、1、3、6時間のサンプルでの解析を予定している。また、昨年度の解析で同定された稔性に関与する知見のある候補タンパク質については、その活性を制御可能な候補物質の報告を見出せたことから、その活性制御候補物質の処理実験を併せて行うことにより候補タンパク質の無核化への関与を検討する。 各サンプルの比較プロテオーム解析については、昨年度行った非標識法に加えてタンパク質標識によりサンプル間比較解析が可能なiTRAQ法を用いる計画である。さらにはこれら解析により同定された無核化関連候補タンパク質の抗生物質処理に対する作用機構を明らかにする目的で、mRNAレベルでの発現応答の有無についても解析する。具体的には各サンプルの一部を用いてRNAを抽出し、リアルタイムPCRにより候補タンパク質のmRNA発現量をサンプル間で比較する。 本年度の解析により無核化への関与が有力なタンパク質が同定された場合は、ウエスタンブロット解析による目的タンパク質の発現時期や部位を特定する計画であるため、出来るだけ早く抗体を作製し最終年度には詳細な発現様式を明らかできるよう実験準備を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験サンプル調整の難航により、予定していた外部委託試験の納品可能期間に間に合わないと判断したため、より簡易な外部委託試験に内容を変更して行った。この差額により残額が発生した。 次年度は初年度の試験結果を受けて外部委託試験のサンプル数が増加する見込みであるため繰り越し分と合わせての使用を計画している。
|