本研究は、イネ胚乳の内部を占めるデンプン性胚乳細胞(SE)と最外層に位置するアリューロン細胞(SE)という2種類の構成細胞が初期胚乳細胞より分化するメカニズムを中心に、胚乳発生の分子機構を明らかにすることを目的とする。 胚乳の発生は受精中央細胞核の細胞質分裂を伴わない分裂を行い、生じた数千の核が細胞内周に1層に配置された多核細胞(シンシチウム)を形成した後、遊離核間に垂層細胞壁が形成されアルベオリという区画が出来る。アルベオリ層(1 層)は並層分裂により、外側に完全細胞層と内側にまたアルベオリ層を生じる。さらにアルベオリと外側細胞はそれぞれ並層分裂を繰り返す。この過程を細胞化という。この際、最外層における並層分裂では、内側に配置された細胞は、常にSEへの分化運命を辿るのに対し、外側細胞は、再び並層分裂により内側へSE運命を辿る細胞を作り出すとともに最終的にAL細胞に分化する。原理的には、最初の並層分裂は非対称分裂であるが、その実態は未知であった。 前年度までに、アルベオリ層並層分裂後の 2 細胞層期後期には SE および AL 分化につながるAL/SE 運命特定が行われていることを LMD-RNAseq によりつきとめた。本年度は、さらに詳細な時空間的トランスクリプトーム解析を行い、表皮分化のマスターレギュレータ(Type IV HD-ZIP 遺伝子群)が シンシチウム期から発現しており、2 細胞層期後期に外側細胞に発現が限定されることを明らかにした。すなわち、シンシチウム期の核は表皮的性質の発現を開始しているものと推定された。さらに同じトランスクリプトームまた同解析により、AGPL2 など胚乳特異的デンプン合成系遺伝子の発現がシンシチウム期から 1 細胞層期にかけて顕著に上昇することが明らかになり、胚乳としての運命の歩みがアルベオリ(1 細胞層)期からすでに始まっていることを明らかにした。
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