研究課題/領域番号 |
19K05970
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
島谷 善平 神戸大学, 先端バイオ工学研究センター, 部局研究員 (30574701)
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研究分担者 |
寺田 理枝 名城大学, 農学部, 教授 (30137799)
犬飼 義明 名古屋大学, 農学国際教育研究センター, 教授 (20377790)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / 植物育種 / ノックイン / イネ根系改良 |
研究実績の概要 |
近年、世界人口の急激な増加とそれに伴う環境劣化が顕著化しており、さらに世界規模での急激な気候変動や温暖化により、持続的耕作が可能な農地面積は減少傾向にある。世界の食料安全保障のため、環境変動に対応できる作物品種の開発と、その工程を迅速化する植物育種技術の開発が喫緊の課題である。しかし、現状の植物育種では地上部の形質改善が主流であり、地下部(根系)改良の成果は乏しい。この要因として、土中の地下部組織の機能評価は可視化が難しく、根系形成機構の遺伝的制御の情報が他の器官に比べ圧倒的に少ないことがあげられる。そのため本研究では、イネの乾燥耐性向上を目的とし、遺伝子ターゲティングを応用したゲノム編集により根系形成遺伝子の機能改変と同時に改変遺伝子の発現のバイオイメージ化も行い、根系形成の分子機構を解析するとともに、根系を改良した新規有用系統の作出を目指す。具体的には、イネの根系形成におけるオーキシンシグナル伝達にて主要な働きを担う遺伝子OsIAA27を題材とし、非分解型変異を導入することで冠根の発育抑制を試みる。これにより、冠根形成におけるOsIAA27の関連を明らかにすると共に、養水分の吸収を担う側根形成を補償的に促すことで、植物体の耐乾燥性の向上や低肥沃土壌への適応により、収量の増加や安定化が期待できる。さらに、EGFPをインフレームで連結するノックイン改変を実施して変異型OsIAA27-G170S-EGFP融合遺伝子を創出し、非分解型OsIAA27タンパク質の時空間的局在を可視化することで、その機能解明を進める。今年度はOsIAA27改変用遺伝子ターゲティングベクターを設計・構築し、アグロバクテリウム法によりイネに導入し、OsIAA27ノックイン改変体カルスを作成した。さらに、選抜マーカー遺伝子の自律的削除にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子ターゲティングベクター「pOsIAA27-EGFP」を用いてイネ種子胚由来カルスに形質転換実験を行い、3系統のカルスにおいてOsIAA27-EGFPターゲティングベクターが相同組換えを介して、OsIAA27配列に組み込まれたことを確認できた。ただし、これらの3系統のカルスでは、OsIAA27-EGFP改変配列にハイグロマイシン耐性の選抜マーカー(hpt)と、選抜マーカーを自律的に削除できるトランスポゾン配列および当該配列の削除を目視確認できる可視化マーカーも組み込まれるため、3系統のカルスに対して、自律的に選抜マーカー削除を誘導できる処理を行った結果、2系統のカルスにおいて、選抜マーカー等の配列が削除されたOsIAA27-EGFPノックインターゲティングカルスの獲得に成功した。その際のターゲティングカルスの観察では、選抜マーカーに連結した目視マーカーの発色がマーカー削除と共に消失し、この様なカルスでは部分的にEGFPの蛍光が観察できたが、OsIAA27-EGFPノックインカルスにおけるOsIAA27の発現を精密に解析するためにはT1世代の種子由来カルスを用いて、培地の植物ホルモン条件も配慮した上で、分離野生型カルスと比較した観察が必要と考えられる。次いで、これらのカルスからの植物再分化を誘導し、2系統からそれぞれ6系統ずつ、全12系統の再分化イネを獲得できた。これらのイネについては、P1閉鎖系温室で育成を進めている。一方、OsIAA27-G170S-EGFPターゲティングベクターについては、形質転換実験を行い、約150個の候補カルスのPCR解析を行ったがG170S変異を持つカルスは得られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後、各系統の葉由来DNAを抽出して、OsIAA27-EGFPノックインターゲティング配列についてPCRとシークエンスを用いて確認し、種子の獲得を目指す予定である。OsIAA27-G170S-EGFPノックインについては、導入変異により改変体細胞が致死となる可能性もあるが、不明点も多いため、再度OsIAA27-G170S-EGFPターゲティング形質転換を繰り返す予定である。改変植物体が作成できた場合は、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、改変植物体の様々な組織における非分解型のOsIAA27-G170Sタンパク質と分解型の野生型OsIAA27タンパク質の発現、局在および分解の過程を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は国内外での学会発表等を予定していたが、COVID-19感染拡大防止措置により出張を業務を取りやめたため、旅費を使用することなく年度業務を終えた。また、遺伝子改変植物体の全ゲノムシークエンス解析を実施する必要が出てきたため、今年度使用予定とした研究費の一部をを解析工程の外注に充てることで、より高度な解析と業務の効率化を図る。
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