研究課題
植物の栄養繁殖性と環境応答の分子制御機構に関わるクロストークを明らかにするために、イチゴの枝分かれと環境応答を制御する植物ホルモンの1種であるストリゴラクトン(SL)の受容体D14について、モデル品種二倍体イチゴであるFragaria vescaを材料として、高効率CRISPR-Cas9を用いて変異体を作製した。2種類のgRNAを用いたCRISPR-Cas9ベクターをF. vescaに導入し、それぞれ形質転換当代(T0世代)において体細胞レベルでバイアレリック変異を示すノックアウト体を得た後、ランナーによる株分けを行い、T0世代での栄養繁殖性および水分環境に対する応答性に関わる表現型を解析した。fvd14は野生型に比べ、特にロゼット葉数の増大が顕著に見られることが明らかとなった。一方で、fvd14は野生型に比べ気孔開口の程度が高くなっており環境因子に対する応答性が異なることが示唆されたが、アブシジン酸(ABA)による気孔閉口は野生型と同程度の応答性を示した。F. vescaにおけるFvD14遺伝子欠損の影響を分子レベルで明らかにするために、通常生育条件および水分損失環境条件で、野生型および<i>fvd14</i>変異体のRNAシーケンスを行った。その結果、fvd14変異体の通常生育条件下では、野生型で水分損失ストレス時に変動する遺伝子群と大きく重複性が見られ、変異体が通常条件下においてもすでに乾燥ストレスをより強く感受している状況にあることが示唆された。一方で、野生型において水分損失において発現抑制する成長に関わる遺伝子群の一部については、fvd14変異体では変動が見られず、これらの遺伝子群がイチゴにおいてSL受容体D14の制御下で発現が抑制されることも示唆された。今後、さらにイチゴにおけるSLの生長分化と環境応答制御の分子機構について詳細解明を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
現在までのところ、昨年度構築したイチゴにおける高効率ゲノム編集を用いたストリゴラクトン受容体fvd14ノックアウト変異体を用いて、栄養繁殖および環境応答に関わる表現型解析を順調に進めており、イチゴにおいてFvD14遺伝子欠損の影響を分子レベルでの解析を開始しした。RNA-シーケンスの結果から、fvd14変異体では、すでに乾燥ストレスをより強く感受している状況にあることが示唆され、また、イチゴにおいてSL受容体D14の制御下で発現抑制される遺伝子群を明らかにすることができた。以上より、本研究は、当初の計画通りに順調に実験を進められている。
イチゴにおけるSL受容体の制御下で発現変動する遺伝子群の網羅的解析を行った。今後は、D14制御下で栄養繁殖を制御する因子群に加え環境応答のクロストークに関わる因子群を詳細解析し、SLが制御する植物乾燥ストレス応答と栄養繁殖性植物における環境適応の分子機構を解明する予定である。
前年度、新型コロナの自粛期間のため予定していた海外出張が中止となり、使用予定であった旅費などを繰越し使用したがさらに計画から余剰となったため次年度分に使用することとした。実験に使用する物品費と合わせて使用する計画である。
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Plant Journal
巻: 103 ページ: 111-127
10.1111/tpj.14712