研究課題
オオムギシュート頂メリステムを構成する全細胞を1 細胞解像度で観察および解析する手法を確立した。本年度は、確立した手法を用いて室内栽培環境(7℃、短日条件)下で播き性の異なる2種類のオオムギのシュート頂メリステムの細胞動態変化を調べた。その結果、発芽直後のオオムギのシュート頂メリステムは比較的体積の大きな80~90個の細胞から構成され、その後、シュート頂メリステムの形態がドーム状から円柱状に変化するととも細胞数が増加し、生殖生殖期に入る前に約1000個の細胞から構成されるシュート頂メリステムの形状が完成していることが明らかとなった。また、比較した2系統に関しては、シュート頂メリステムの形態が変化するタイミングは変わらないが、細胞レベルでの変化のスピードに違いがあることがわかった。このような細胞動態変化をもとに、オオムギシュート頂メリステムの発生過程のステージングを行い、既知の茎頂部の形態変化を指標とした発生ステージ(Waddington stage)では識別できなかったステージを同定することに成功した。また、シュート頂メリステムの活性や形態に関連したマーカー遺伝子を導入した形質転換オオムギの作成を開始し、植物ホルモン応答性マーカーを導入した形質転換オオムギの形質転換体に関してはすでに形質転換体の候補を得ており、現在スクリーニングを進めている。さらに、野外環境下におけるオオムギシュート頂メリステムのアトラス作成に向けて、2019年秋から野外圃場で播き性の異なるオオムギを栽培し、発芽直後から花芽形成期に至るまで毎週茎頂部のサンプリングを行った。
2: おおむね順調に進展している
予定していた研究計画を遂行できており、関連した成果の発表も複数行っている。
オオムギシュート頂メリステムのアトラスを作成するために、マーカー遺伝子(メリステム関連遺伝子、植物ホルモンマーカーなど)の発現や細胞分裂活性などの細胞活性をマッピングし、シュート頂メリステムの細胞動態変化に基づくアトラスを作成し、発生過程におけるシュート頂メリステムのステージングを行う。また、野外環境で栽培した複数の系統を材料に用いて、得られたアトラスからそれぞれの系統における細胞の特徴を検出し、系統間あるいは室内栽培条件下と比較することで、環境変動に対するシュート頂メリステムの細胞動態の系統間差の検出や環境変動に応答する細胞群や発生ステージの同定を行う。
画像解析システムの構築の際に既存のものを改変して利用したため、それにかかる経費が当初の予定より少なくなったため。次年度に持ち越した費用に関しては、引き続き画像解析システムの改良および拡張に使用するとともに、新たにマーカー遺伝子抽出のための発現解析に使用し、より精密なアトラス作成に利用する予定である。
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