研究課題
パンコムギにおける種子貯蔵タンパク質の多重遺伝子それぞれの発現を制御する転写因子を特定し、多重遺伝子の発現制御機構を明らかにすること、ゲノム編集技術により転写因子の機能欠損体を作出し、低アレルゲン化したコムギの作出を目的とした。コムギ品種Fielderを用いて種子貯蔵タンパク質遺伝子の発現を調節する転写因子の候補であるSPA、SHPについて、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集を行った。Cas9タンパク質とgRNAのRNPを未熟胚に導入する手法ではゲノム編集個体が得られなかったため、Cas9とgRNAを発現するプラスミドベクターをパーティクルデリバリーシステムでコムギ未熟胚に導入する手法で実験を進めた。ゲノム編集の標的配列は、転写因子のbZIPドメインの上流で、パンコムギの3種の同祖遺伝子に共通する配列とし、in vitroアッセイでCas9による切断効率の高いものを選出した。プラスミドベクターを導入した未熟胚のゲノム編集効率を調べたところ、SPAについては変異導入が認められたため、この標的配列のgRNAとCas9のプラスミドベクターを導入した未熟胚から植物体を再生した。再生体の遺伝子型を調査したところ、1個体でAゲノムおよびDゲノムのSPAではバイアレリックに、BゲノムのSPAではヘテロに変異が導入された遺伝子型aaBbddであることが分かった。この個体を自殖し、次世代の植物体を得ることで、SPAの3種類の同祖遺伝子すべてが変異した系統の形質評価が可能となった。一方で、SHPについては、標的配列の選定や培養条件の検討を行ったが、変異体を得ることはできなかった。SPAについても変異体は得られたものの変異導入効率は低いため、パンコムギにおけるCRISPR/Cas9によるゲノム編集の効率を上げる条件検討がさらに必要であると考えられた。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Journal of Cereal Science
巻: 109 ページ: 103591~103591
10.1016/j.jcs.2022.103591