研究課題/領域番号 |
19K05980
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
津田 勝利 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 助教 (30756408)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 野生イネ / 穂分枝形成 |
研究実績の概要 |
花序の分枝数は種子の収量に直結する重要形質である。栽培イネOryza sativaは祖先の野生イネO. rufipogonに比べ穂分枝数が多く、栽培化の過程で種子数を増大させた主要因と考えられるが、どのような自然変異に起因して分枝数が増えたのかは不明である。研究代表者は、野生イネが強力な分枝抑制因子Uniaxial (Uni)を持つことを見出した。本計画では、野生-栽培種間でUniに生じた自然変異を同定するべく、以下の項目を実施した。 1. Uni候補領域のゲノム構造の決定:まず、Uni候補領域が構造変異を持つことをサザンブロットにより確認した。この領域はPCR増幅ができなかったため、PacBioを用いて全ゲノム配列を同定した(先進ゲノム支援・支援課題)ところ、野生イネには約32kbの挿入配列が存在することが明らかとなった。RNAseq解析の結果、この領域には花序分裂組織で高発現するORFが2つ存在した。現在これら2つのORFについてゲノム編集により変異体を作成中である。 2. Uni表現型解析:透明化処理を施した茎頂分裂組織を観察し、Uniでは一次枝梗原基の形成が極度に抑制されていることを確認した。 3. Suppressor of Uni (Suni)の存在の検証:野生イネはUniをホモ型に持つにもかかわらず、ある程度の穂分枝を形成することから、Uniと拮抗する因子が野生イネゲノムに存在することが考えられた。そこで、Uni x 野生イネ交雑F2集団の表現型・遺伝子型解析を行った結果、少なくとも1つの拮抗因子Suniが野生イネゲノムに存在することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初、Uniの候補領域は日本晴ゲノム上で約30kbの範囲に絞り込めていたが、野生イネには栽培イネに存在しない大きな挿入が存在することが分かった。この領域のDNA配列を解読するべくPCR増幅を様々な条件で試みたが不成功に終わった。そこで、方針を変えて全ゲノム配列を決定し(先進ゲノム支援・支援課題)、予測通り野生イネゲノムのUni候補領域に約32kbの挿入が存在することを確認した。これら一連の作業に初年度の大半を費やしたため、Uni原因遺伝子の決定・抗体作成などに着手できなかった。一方でゲノム配列を取得できたことは、今後のSuniのマッピングや野生イネにおける遺伝子発現解析においても不可欠な情報基盤となるため、大きな成果と言える。 また、Uni x 野生イネ交雑F2集団の解析においても、予測通り拮抗因子Suniの存在を支持する結果を得ており、野生イネ独自の穂分枝制御機構の解明に向けた基礎的知見を得ることができた。 以上を踏まえて、本研究は概ね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1. Uni原因遺伝子の確定:ゲノム編集により候補領域内の遺伝子破壊株を作成し、表現型が正常に戻るかどうかを評価することでUni原因遺伝子を確定する。 2. 1.の完了後、Uniの発現パターンをRT-PCRやin situ hybridizationおよび免疫染色により調べる。 3. Uniが制御する下流遺伝子経路を明らかにするため、一次枝梗分化期前後のサンプルからレーザーマイクロダイセクションによりRNAを単離し、トランスクリプトーム解析をおこなう。 4. O. rufipogpnおよび栽培イネにおけるUni遺伝子座の多型情報を収集し、Uniの欠失が起きた系統・時期を推定するとともに、栽培化との関連を調べる。 5. 拮抗因子Suniの同定のため、マッピング用の集団の作成を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:Uni候補領域のDNA配列決定にはPacBioによるゲノムシーケンスが必要であったため、候補遺伝子配列情報を得るのに初年度の大半を費やした。そのため、原因遺伝子確定のための形質転換実験やその後の抗体作成などの実験が実施できなかったため、次年度使用額が生じた。 使用計画:Uni原因遺伝子の確定後、抗Uni抗体の作成(ウサギへの免疫の外注)や機能解析のための試薬・植物育成用品の購入などに使用する。
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