研究実績の概要 |
水稲種子の温湯消毒法は、農薬を使用しないクリーンな技術である。我々は、種籾の水分含量を消毒前に10%未満まで落とすこと(事前乾燥処理)により高温耐性が強化できることを見出し、通常よりも5℃も高温の防除効果の高い「65℃で10分」処理する方法(高温温湯消毒法)を確立した。本研究では、①事前乾燥処理により高温耐性が強化される機構を遺伝学的な手法で解明し、さらに②生産現場でこの技術を普及させるための実用的な手法を整備するとともに,水稲以外の作物種にもこの消毒法を適用するための解析を行った。その概要は以下のとおりである。 (1)事前乾燥処理の効果が顕著である水稲品種「Jinguoyin」と効果の低い「Kalo Dhan」の間で交配を行い、事前乾燥処理による高温耐性強化機構にかかわる遺伝子のQTL解析を行った。本年度は、昨年度までに検出された「第1染色体上のQTL」の近傍のDNAマーカーをさらに整備し、遺伝子領域の絞り込みを行った。また昨年度は、国際稲研究所(IRRI, フィリピン)が作成したジャポニカ品種集団(225品種)を用いたゲノムワイドアソシエーション解析(GWAS)も実施しており、「事前乾燥処理なしでも潜在的に温湯消毒時の高温耐性が強い」という形質に関わるQTLも検出した。 (2)水稲種子の高温温湯消毒法を生産現場で普及させるために、実用的な事前乾燥処理条件を詳細に検討した。その結果、40~50℃程度で12~24時間加温して乾燥させる方法が実践的であることが示された。さらに本年度は、高温耐性の強化には種籾の中でも胚乳ではなく、特に胚の水分含量の低下が重要であることを明らかにした。一方、水稲以外の作物種として大麦の種子でも事前乾燥による高温耐性強化が認められた。これによりビールの原材料となる麦芽製造過程でも、農薬を用いない温湯消毒が有効な消毒法になり得ることが示唆された。
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