研究課題/領域番号 |
19K05997
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
荒木 英樹 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (90346578)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コムギ / 早枯れ / 枯れ熟れ様登熟不良 / 窒素代謝 / 湿害 |
研究実績の概要 |
コムギでは、過湿土壌ストレスを受けた場合や枯れ熟れ様登熟不良を発症する産地において,登熟期に茎葉が早く枯れ上がり子実の充実不足が起こる登熟障害が問題となっている.申請者は2010年から先行研究を実施し,この登熟期の早枯れは、穂形成期以降に激増する窒素シンク容量に対して根からの窒素供給速度が追い付かないため,タンパク質や酵素などの貯蔵窒素化合物の分解が早くに促進されるため起こるという作業仮説を立てた。本研究ではこの仮説を検証するために、先行試験によって特定した2つの早枯れ発症圃場(枯れ熟れ様登熟不良、湿害)を対象として,早枯れする個体と早枯れしない個体の間で,窒素吸収量や体内の窒素化合物含有率の変化を比較する.2018/19年作期の高地下水圃場で栽培したコムギでは,地下水位が高いほど葉の枯れ上がりが早く起こり,子実の成長が抑制されることを確認した.同時期に,施肥量を制限して枯れ上がりが早く起こるようにした個体では,葉内アミノ酸含有率に比べて水溶性タンパク質含有率が開花後から早く低下し,その後プロテアーゼ活性が開花後10日ごろに急激に高まることを確認した.こうした過程が高地下水圃場でも生じたかどうかについて,現在解析を進めている.枯れ熟れ様登熟不良圃場においては,圃場の一部で枯れ熟れ様登熟不良と思われる早枯れが生じた.そのエリアについて,根系調査を行い,早枯れしたエリアは作土層が薄く,心土が固く,根の発育量が少ないことが確認できた.これらの知見をもとに,2019/20年作期の試験栽培を設計し,現在登熟期の試料採取および測定を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究期間では,採択前年度に栽培を開始した試料を用いて解析を進めることができ,登熟期における枯れに伴う窒素代謝の変化(とくに,水溶性タンパク質,アミノ酸,全窒素含有率,葉色の観点)を定量的に明らかにすることができた.また,高地下水位圃場では,予想通り,地下水位に応じて早枯れが生じた.現在解析を進めている2019/20年度作期では,さらに明瞭に反応していることから,今後解析を進めることによって,計画以上の成果が得られると期待される.枯れ熟れ様登熟不良発症圃については,2018/19年作期は早枯れが部分的にのみ発生した.今後その解析に着手する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
窒素施肥抑制による早枯れについては,2年間のデータが揃ったため,今後論文による成果公開に向けて準備を進めている.高地下水位による早枯れについては,現在まさに実験が進行している最中であり,今後採取した葉を分析していく.とくに,2019/20年作期試験は,安定同位体を用いた窒素の吸収能力評価を加えて分析を進める.枯れ熟れ様登熟不良による早枯れについては,今年はコロナウイルス(COVID-19)対策として,地域間の移動制限の影響もあり,植物試料の採取時期が限定的になった.根の調査など,予定していた解析が十分できない可能性が高いが,収穫時期の試料採集などはまだできる可能性があるため,今後,可能な限り計画通り進めるよう努める.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの感染拡大防止対策により,学会発表のための旅費が次年度使用額となった.2020年度の学会旅費等に使用する.
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