コムギでは,原因不明の枯れ熟れ様登熟不良や過湿土壌ストレスを受けた群落で,葉の「早枯れ」が生じ登熟不良となる.しかし,葉が早枯れする原因や早枯れするに至る一連の生理代謝は明らかにされていない.本研究では,早枯れは,根からの窒素吸収量が穂の窒素要求量に追い付かず,葉の窒素代謝物(アミノ酸)が減少することをきっかけに,プロテアーゼによる葉のタンパク質の早期分解が行われることで起きるという仮説を立て,これを検証した. 実験1では,慣行分施と穂肥重点施肥にそれぞれ開花期追肥有区および開花期追肥無区を設けることで窒素施肥量に差をつけて,葉身窒素代謝物の増減時期を明らかにした.実験2では,同一圃場で地下水位が異なる圃場において,枯れ熟れ耐性の異なるコムギ2品種を栽培し,地下水位と品種の違いが窒素代謝に与える影響を明らかにした.また,開花期に安定同位体である15Nを施用することで,早枯れと窒素吸収量の関係も明らかにした. 実験1において,慣行・開花期追肥有区のプロテアーゼ活性は,開花後19日以降に上昇したのに対して,慣行・開花期追肥無区では開花後10日以降に高まった.プロテアーゼ活性が上昇するまでにアミノ酸含有率は低下せず,可溶性タンパク質含有率は開花直後から低下した.実験2では,いずれの品種も高地下水位区で枯れが早く,窒素代謝物の変化は実験1と同様の結果となった.主茎および分げつあたりの15N含有量は,地下水位の違いによる差はない一方で,茎(穂+稈)あたりの全窒素蓄積量は高地下水位区で少なかった.以上の結果から,①葉のプロテアーゼ上昇のきっかけはアミノ酸含有量ではない,②早枯れしやすい高地下水位区では可溶性タンパク質は開花前から低い水準で低下していく,③高地下水位区では,開花後の窒素蓄積量が少ない,などの特徴があることが明らかとなった.
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