研究実績の概要 |
従来,潅水の量やタイミングは,土壌中の水分状態(VWC, pF)や蒸発散量に基づいて決定される.しかし,水資源に制限のある島嶼地域では,これらパラメーターに加え植物体の状態なども考慮し効率的な灌漑技術が求められている.土壌水分ストレスに対する作物の応答は品種,履歴,土壌・微気象環境条件で著しく異なる.本研究では,植物生理学的パラメーターの一つである葉内CO2濃度(Ci)に着目し,その情報と気象データ,土壌水分状態に基づいて潅水のタイミングを決定し,作物の水利用効率の最適化を試みようと企画した課題である. Ciは水分ストレスなどに敏感に反応するため植物の健康状態を診る「聴診器」の機能を有する.そこで,土壌水分,微気象データに加えCi も同時計測し,植物の健康状態に基づいて灌漑設備を制御すれば精緻な節水灌漑が実現出来ると考えた.通常 Ci は高価な光合成蒸散同時測定装置を用いて各ガス交換速度パラメーターから計算によって求められる.我々は既報において非破壊でしかも長期間の連続測定が可能な新しいCi カップを開発した.本研究では,Ci 実測システムが灌水の制御のターゲットとして制御系に組み込めるか否かを検討した. 2020年度は,土壌から葉の光合成器官までの水分動態および水ストレスに伴うガス交換速度の変化およびCi 計測による水ストレス診断法の確立,など,Ci を基礎にした灌水制御システムの開発に向けたデータを蓄積した. 2021年度は,C3植物のニトベギク,C4植物のサトウキビを用いて,重量法蒸散速度,サップフロー,Ciを同時に計測した.その結果,C4植物のサトウキビのCiは日中,10ppm付近まで低下したが,C3植物のニトベギクは200ppmで推移した.これはCO2を最初に固定する酵素の違いが反映されているばかりで無く,葉の構造も関係していることが判明した.
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