イネにおいて、窒素の転流や蓄積過程に関する潜在的能力を反映する子実への窒素集積性は、登熟期における子実と栄養器官の間の窒素分配に強くかかわり、窒素利用効率や収量性に強く影響すると考えられる。これまでに子実窒素集積性の定量的評価法を提案し、本評価法に基づいて水稲多収品種であるモミロマンとタカナリの交配によって得られた解析集団を用いて行った解析により、子実窒素集積性への関与が推定される2つの染色体領域を見出した。本課題では、推定された染色体領域に関する準同質遺伝子系統(NILs)の育成、NILsを用いて推定領域の子実窒素集積性への関与の実証および窒素吸収や分配に関わる生理・生態的形質への影響を明らかにすることを目的とした。 2020年までにNILsとして育成した、モミロマンの遺伝背景に子実窒素集積性への関与が推定された染色体領域のそれぞれがタカナリ型に置換されたBC4F3およびBC4F4を用いた。これらを2021年には群落レベルで栽培し、それぞれの染色体領域におけるタカナリアリルがモミロマンの遺伝背景で子実窒素集積性、乾物生産量、窒素吸収量および収量形質に及ぼす効果について調査した。両染色体の置換領域とも乾物生産量や窒素吸収量への影響は認められなかったが、子実窒素集積性および玄米窒素濃度を高めた。このことから当該領域における子実窒素集積性に関するQTLの効果が実証され、このQTLは登熟期のイネ体内の窒素分配に関わることが明らかになった。また、登熟歩合や茎葉への非構造性炭水化物の再蓄積になど登熟期の乾物動態に関しても興味深い結果が認められた。ただし、置換領域には出穂期に関するQTLも含まれているため、これらの乾物動態に対する効果は出穂期の影響を間接的に受けたものである可能性は現時点では排除できない。今後出穂期に関する領域と切り分けた上で解析が必要と考えられた。
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