研究課題/領域番号 |
19K06014
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
切岩 祥和 静岡大学, 農学部, 教授 (50303540)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超音波 / 種子プライミング / 耐暑性 / 種子発芽 / 抗酸化応答 |
研究実績の概要 |
本課題は、夏期高温期における作物生産の安定化に寄与するための技術開発を目指すものである。昨年度処理効果が認められたミツバを供試し、高温条件下で耐性が向上する仕組みについて検討した。 【発芽試験】28 kHzの超音波処理が30℃条件下における発芽係数を有意に高めることを明らかにした。この時胚のスーパーオキシドアニオンが蓄積したほか、超音波処理した蒸留水が著しく濁っていた。この水はミツバの発芽を抑制したことから超音波処理により発芽抑制物質を溶出させる効果が確認された。また、ミツバの発芽特性を検討した結果、胚のNADPHオキシダーゼによって産生する活性酸素種(ROS)とその作用によるGAやABA、胚乳のROS等による発芽制御の関連性が推察された。 【高温処理試験】超音波処理した苗はCAT活性が高温処理前でも高かった。30℃の高温処理は葉数や地下部の減少を引き起こしたが、超音波処理(28、40、100、200 kHzの混合照射)により改善された。超音波処理区の葉では、過酸化水素やスーパーオキシドアニオンの蓄積が抑制され,またCATやSODの活性が増加した。 以上のように、播種前の超音波処理は不良条件での発芽を改善するとともに、それにより育成された苗の抗酸化活性も高い状態が維持され、結果的に高温耐性を発揮すべき環境条件下においてその抗酸化能を確実に発揮でき、結果的に耐暑性を獲得している可能性が確認された。 このミツバにおいて確認された高温耐性の効果に類似するのがホウレンソウで、種子に対する超音波処理による発芽抑制物質の溶出と、発芽の改善、および耐暑性の向上効果の関連性についてされに検証する必要がある。一方で、他の周波数帯で効果を示す作物もあり、このミツバやホウレンソウとは異なる傾向があることから、その詳細なメカニズムについてさらに検討を続けたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数多くある供試材料の中から、高温に強くなる作物を見つけることができ、その処理に共通点のある可能性が推察できたことが大きい。またミツバとホウレンソウは養液栽培される作物の中でも夏の暑さ対策が重要な作目であることからも、その成果の実需場面への貢献が期待できるという点でおおむね順調と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
超音波を種子プライミング技術として確立することは社会的意義も大きく、さらに研究スピードを加速させたいと考えている。別途相談された露地野菜の作目においても、近年の夏の酷暑対策が求められ、今年度早速この技術の現場実証をする運びとなっている。その作物での効果はまだ未知であるが、この技術に期待する現場が多く存在することに意義を感じ、社会に貢献できる技術として確立できるようさらに研究を進めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍での研究活動となり、単年度で執行すべき予算を優先的に執行せざるを得ない状況となり、次年度に持ち越せる本基金を次年度にまわすことで対応した結果、大幅に繰越金が発生した。研究活動は研究計画に沿っておおむね順調に進んでいることから、令和3年度はその分も考慮しながら実験に必要な機材や消耗品の購入を進め、より完成度の高い研究の推進に充てる。
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