本研究課題は,夏期高温期における作物生産の安定化に寄与するための技術開発を目指すものである.これまでに,数種作物の種子に対して超音波処理を行ったところ,高温耐性が向上することが明らかとなった.その一方で,効果がなかったり,逆に発芽に悪影響を及ぼすこともあったことから,超音波照射による耐性向上技術として安定化させる必要がある.2021年度は多くの作物に対する超音波処理効果のカルテを完成させる予定であったが,予想以上に超音波照射による処理効果が安定しない作物等もあったことから,耐暑性向上効果があった作物(ミツバ,ホウレンソウ,リーフレタス)については,ストレス耐性のメカニズムの検討を,処理によって悪影響を受けた作物(ネギ,タマネギ)については,処理による影響について詳細な検討を行った. 耐暑性向上効果のあった作物では,種子発芽および苗のストレス条件下での抗酸化応答について調査した.高温処理して1~2日後の抗酸化酵素活性では,ミツバでは超音波処理によりSODとCAT活性が高かったが,ホウレンソウではSODが増加し,CATは影響されないが,APXは逆に低下傾向を示した.これに対し,リーフレタスでは高温によりCATが著しく増加し,高温ストレス下での抗酸化酵素活性の影響や,超音波処理による応答は作物によって異なることが明らかとなった. 次に超音波によって悪影響を受けた作物について調査した.ネギを供試し超音波処理した種子をSEMで観察したところ,種皮表面にひび割れが確認された.このひび割れた種子は過湿条件での発芽率が著しく低下したことから,発芽に悪影響を与えることが明らかとなった.このような種皮のひび割れは,周波数や作物間で異なることが確認されたことから,種皮構造特性に応じて処理強度を考える必要があるかもしれない.
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