研究実績の概要 |
本研究は香りナシの育成に向けて、イワテヤマナシが持つ有用形質の一つである果実の香気成分生成の分子機構を明らかにする内容である。香り豊かなイワテヤマナシの在来品種‘ナツナシ’と香りが弱いニホンナシ栽培品種‘幸水’との交配後代を用いた香気成分のQTL解析によりナツナシ’の第2連鎖群(LG2)に最も寄与度の高いQTLを見いだしている。初年度に‘ナツナシ’と‘幸水’のPacBio NGS解析によるdenovoアセンブリからLG2にAAT遺伝子が2種類(AAT1,AAT2)座乗していた。PuAAT1-1(‘ナツナシ’由来)とPaAAT1-1(‘幸水’由来)間の塩基配列は完全一致したが調節領域(プロモーター)に1個のSNPが見つかった。PuAAT2-1とPaAAT2-1ではExonの機能モチーフ中に1アミノ酸変異と調整領域にも1ヶ所in/delが見つかった。また‘ナツナシ’と‘幸水’のNanoporeロングリードIso-seq解析を行い、2種類のAAT1,2の各対立遺伝子座の発現量をリード数に基づき推定した。‘ナツナシ’の PuAAT1-1, 1-2、‘幸水’のPaAAT1-1、1-2は強く発現していたが‘幸水’のPaAAT2-2の発現は弱かった。最終年度ではAAT1, AAT2遺伝子の調節領域で起きた変異の影響を調査するため果実でのGUSレポーターアッセイによる一過的過剰発現系を構築した。‘ナツナシ’‘幸水’ともに完熟果実で発現しており、AAT1, AAT2遺伝子の調節領域は正常に機能することが判明した。現在、大腸菌を用いて大量発現させた‘ナツナシ’‘幸水’のAAT1, AAT2タンパク質に基質と混合することでエステルが合成されるか調査中であり、‘ナツナシ’果実のエステル香の発生に関する分子メカニズムを明らかにする予定である。コロナ渦の課題の遂行になり当初の計画から遅延が生じた。
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